脊髄小脳変性症の分類・症状・治療・予後・リハビリ全知識
脊髄や脳にある小脳という部分の障害によって歩きにくさや手の震えなどが生じる病態。
今回は脊髄小脳変性症について解説していきます。
脊髄小脳変性症とは
脊髄小脳変性症は小脳の神経細胞の変性によって
歩く時のふらつきや手で何かをしようとすると震えるといった症状をきたす病態です。
日本では約3万人の患者がいます。
ドラマでも脊髄小脳変性症が取り上げられた事から認知度は高まっています。
脊髄小脳変性症は遺伝性のものが30%、そうではない孤発性のものが70%といわれています。
10年から20年かけて病気が進行します。
人によって個人差はありますが非常にゆっくりと進行するのが特徴です。
脊髄小脳変性症は多くの病型の総称としてその名称が付けられており、障害される部位や症状、経過などは種類は様々です。
脊髄小脳変性症の症状
歩行時のふらつき、手の震え、ろれつが回らないといった症状が見られます。
手の震えはじっとしている時は問題ないですが、何かを取ろうとしたり動かした時に震えるのが特徴です。
またパーキンソン症状(動作緩慢、関節の動かしにくさ、姿勢反射障害)や便秘や下痢、排尿障害、起立性低血圧などの症状も見られる事があります。
脊髄小脳変性症に特徴的な運動失調
脊髄小脳変性症で特徴的なのは運動失調と呼ばれる症状です。
運動失調とは手足や体幹の随意的な運動が障害された状態を指します。
私たちは目的のものに向かってまっすぐに手を伸ばして動作を遂行することが可能です。
しかし運動失調があるとそれが困難になります。
例えばコップに入った水を飲もうとしても、手を伸ばして行くときに運動の調節ができずに手が震えてしまいます。
筋力が弱いわけではなく、運動の調節をしている神経に異常が生じるのが運動失調です。
小脳の役割
小脳は大脳の下、後頭部にあたる部分に存在しており、平衡感覚、筋肉の緊張、随意運動の調節を行っています。
視覚情報や感覚情報を元に、私たちが動く運動の調節をしてスムーズに動作が行えるように重要な役割を果たしているのです。
箸で物を掴んで食べるという動作にしても、親指と中指にこのくらいの力を入れて、これくらい指を曲げて、肘はこのくらい曲げて・・・なんて考えずに私たちは動作しませんよね?
これは小脳が感覚を感じ取って運動を調節しているから無意識にスムーズな運動が行えているからなのです。
最近では小脳は運動の調整だけでなく、短期記憶や注意力、感情、高度な認識力、計画を立案する能力のほか、統合失調症や自閉症といった精神疾患と関係している可能性もあると言われています。
脊髄小脳変性症の分類
脊髄小脳変性症にはいくつかタイプがあります。
遺伝性の有無や、障害された神経の種類、症状などによって分けられています。
まず大きく遺伝性か非遺伝性かで大別されます。
非遺伝性である孤発性の脊髄小脳変性症
非遺伝性は脊髄小脳変性症の70%を占めます。
非遺伝性は多系統萎縮症と皮質性小脳萎縮症の2つの種類があります。
多系統萎縮症
小脳を含む他の部位の変性も見られます。孤発性の脊髄小脳変性症の多くを占めます。
以前までは「オリーブ橋小脳萎縮症」「シャイドレーガー症候群」「線条体黒質変性症」に分けられていましたが、病態が同じである事がわかったため、全てを統合して多系統萎縮症としています。
症状は以下の小脳症状、パーキンソン症状、自律神経症状が主に見られます。
小脳症状
運動失調、歩行時のふらつき、呂律が回らないなど
自律神経症状
排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、体温調節障害など
皮質性小脳萎縮症
小脳症状(運動失調、歩行時のふらつき、呂律が回らないなど)のみが目立って現れます。
遺伝性の脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症の全体の30%を占め、遺伝の形式により、常染色体優性遺伝性と常染色体劣性遺伝性の2つに分けられます。
常染色体優性遺伝性
常染色体優性遺伝性は遺伝性の脊髄小脳変性症の中では頻度が多いといわれています。
さらに型よって種類が分けられ、1型、2型、3型、6型、31型、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などがあります。
常染色体劣性遺伝性
日本では比較的頻度は少ないですが、小児期に発症するケースが多いです。
さらにいくつかの種類に分けられます。
フリードライヒ失調症、ビタミンE単独欠乏症失調症、セナタキシン欠損症、シャルルヴォアサグエ型痙性失調症
などがあります。
脊髄小脳変性症の診断
脊髄小脳変性症の診断は神経内科で行われます。
小脳症状、パーキンソン症状、自律神経症状の有無を確認し、頭部MRIにて検査をします。
小脳や脳幹部の萎縮が見られた場合に診断が確定します。
また遺伝子検査にて原因となっている遺伝子を調べることもあります。
脊髄小脳変性症の予後や余命について
脊髄小脳変性症は進行度は病気の型であったり、個人差もあるため予後は様々です。
脊髄小脳変性症の症状が直接死因になる事はありません。
しかし進行によって寝たきりになり誤嚥性肺炎や他の合併症が死因になる事があります。
そのため余命については明確に判断する事は困難です。
10年、20年と長い年月をかけて寝たきりになるケースがほとんどの為、家族や役所と連携して介護に備えていく必要があります。
多系統萎縮症の場合、声帯開大不全(睡眠中息を吸う時に声帯が狭くなる)が生じる事があり、それによって呼吸不全に陥る事が死因になる事もあります。
呼吸不全の予防として気管切開術をする場合もあります。
脊髄小脳変性症の治療法
脊髄小脳変性症を根本的に治す治療法は今のところ確立されていません。
薬物療法にて症状を対処する方法がとられます。
失調症状全般に甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンや甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体が使用されます。
また理学療法士や作業療法士などの専門的なリハビリテーションにて
身体機能と生活レベルが弱らないようにしていく事が中心となります。
脊髄小脳変性症の自宅でできる簡単なリハビリ
脊髄小脳変性症では運動失調によりバランスがとりにくくなり転倒のリスクが高まります。
バランスに重要となってくるのは体幹の筋力です。
進行度や症状によってに出来るものは違ってくるためその都度、理学療法士や作業療法士と内容を考案していく必要があります。
今回はバランス能力を維持するための、初期の段階で簡単に行える体幹トレーニング方法を挙げていきます。
ドローイン
仰向けに寝て、息を吐きながらお腹を凹ませていきます。
お腹が凹んだ状態をキープして呼吸は元に戻します。その状態を20~30秒キープします。
プランク
両肘、前腕、つま先で体を支えて20~30秒姿勢をキープします。
身体が真っ直ぐのまま行うのがポイントです。
ダイアゴナル
四つ這いから右手と左脚を真っ直ぐに伸ばします。体がブレないように20~30秒姿勢をキープします。
手足を左右替えて同じように行います。
他にはバランスボールやストレッチポールなども有効です。
その他動きやすくなる方法として・・・
重錘を手首や足足首、腰回りに付けると、運動失調が軽減して動きやすくなります。
手首では200~400g、足首では300~800g、腰回りでは1kg程度が良いとされています。
まとめ
●脊髄小脳変性症とは小脳に変性をきたし運動失調を主症状とする難病である。
●遺伝性か非遺伝性かに大別され、症状や障害部位によって多くの種類がある。
●現在の医学では完治する方法はなく、薬で対処治療を行うか、リハビリにて運動機能を維持していく事が中心となる。