コンパートメント症候群の原因・症状・治療・リハビリ・全知識
打撲や骨折などの後遺症で手や足が壊死を起こしてしまう事もあります。
そのような事態になってしまう病態をコンパートメント症候群といいます。
今回はそのコンパートメント症候群の症状と治しかた、リハビリについて解説していきます。
コンパートメント症候群とは
打撲や骨折などで組織が損傷を受けた後に患部周囲に腫れが生じます。
するとその腫れによって血管や神経が圧迫を受けて血液循環が悪くなり、組織の壊死や神経麻痺を起こしてしまいます。
このような症状をコンパートメント症候群といいます。
筋区画症候群ともいいます。
壊死を起こすと永久的な障害が残るため、すぐに対応が必要です。
膝から下(下腿部)と肘から下(前腕)に好発します。
急性型と慢性型にわけられます。
特に急性型では壊死を起こしやすく重大な後遺症を残すことがあります。
※壊死とは、生体の組織や細胞が死滅してしまう事です。
コンパートメントとは
コンパートメントとは『仕切り』や『区画』という意味です。
手足には骨や筋膜によって仕切られた区画があり、その区画の中を血管や神経や筋肉が存在しています。
人の身体のコンパートメントとはその仕切られた区画をいいます。
ミカンやグレープフルーツを輪切りにしたのをイメージするとわかりやすいと思います。
皮で仕切られている区画がコンパートメントで、果肉が筋肉や神経、血管のイメージです。
1つの区画の中が腫れや出血によってパンパンになってしまい、血管や神経を圧迫してしまい阻血状態になり症状がでます。
ふくらはぎ(下腿)のコンパートメント症候群
出典:リハ事典
ふくらはぎ(下腿)はコンパートメント症候群で起こりやすい部位です。
※図はふくらはぎ(下腿)を輪切りにしたものです。ふくらはぎでは4つの区画があります。
- 前方筋区画
- 外側筋区画
- 深後方筋区画
- 浅後方筋区画
前方筋区画について
前方筋区画は最も頻度の多い箇所です。
・前脛骨筋(主につま先を上に上げる作用)
・長母趾伸筋(主に親指を上に反らす作用)
・長趾伸筋(主に足趾を上に反らす作用)
この前方筋区画にコンパートメント症候群が生じると脛の前外側面に圧痛が生じ、足関節の背屈(つま先を上に上げる動き)、足趾の伸展(足の指を上に反らす動き)が困難になります。
また足関節の底屈(つま先を下に下げる動き)や足趾の屈曲(足の指を曲げる動き)を他動的に動かすことで痛みが生じるのが特徴です。
外側筋区画について
・長腓骨筋(主につま先を下に下げて小指側を上に上げる作用)
・短腓骨筋(主につま先を下に下げて小指側を上に上げる作用)
この外側区画にコンパートメント症候群が生じると脛の外側に圧痛が生じ、足首の底屈(つま先を下に下げる動き)、外反(小指側を上に向けるように外に捻る動き)が困難になります。
また足の内反(足首を内側に捻る動き)を他動的に動かすと痛みが生じるのが特徴です。
深後方筋区画について
・後脛骨筋(主に底屈、内反の作用)
・長母趾屈筋(主に足の親指を曲げる作用)
・長趾屈筋(主に足の指を曲げる作用)
この深後方筋区画にコンパートメント症候群が生じると脛の骨の内側に圧痛生じ、足首の底屈が困難になります。
また足首の外反、指を反らす動きを他動的に動かすと痛みが生じるのが特徴です。
浅後方筋区画について
・腓腹筋(主に足首の底屈に作用)
・ヒラメ筋(主に足首の底屈に作用)
この浅後方筋区画にコンパートメント症候群が生じると、ふくらはぎに圧痛が生じるのと、足の底屈が困難になります。
また足を背屈方向に他動的に動かすと痛みが生じるのが特徴です。
前腕のコンパートメントメント症候群
前腕部もコンパートメント症候群が起こりやすい部位です。
※図は前腕部を輪切りにしたものです。前腕では以下の区画が存在しています。
- 掌側区画
- 橈側区画
- 背側区画
掌側区画について
・長掌筋
・浅指屈筋
・深指屈筋
・円回内筋
・尺側手根屈筋
・長母指屈筋
・橈側手根屈筋
※これらは主に手首、指を曲げる筋肉です。
橈側区画について
・腕橈骨筋
・長橈側手根伸筋
・短橈側手根伸筋
※これらは主に手首を橈屈(親指側に手首を曲げる動き)する筋肉です。
背側区画について
・総指伸筋
・小指伸筋
・尺側手根伸筋
・短母指伸筋
・長母指外転筋
・長母指伸筋
※これらは主に指や手首を反らす筋肉です。
コンパートメント症候群の原因
急性型
・骨折などによる外傷性の筋肉内出血や浮腫み
・ギプスや 包帯などによる長時間の圧迫
・ヘビの咬傷
・火傷
慢性型
・マラソンランナーなどに多い慢性的な筋肉への負担
などです。
コンパートメント症候群の症状
コンパートメント症候群は急性型と慢性型にわけられます。
急性型は骨折、捻挫、打撲などにより急激に生じ、
蒼白、脈拍消失、痛み、運動麻痺、感覚障害、腫脹がみられます。
これら5つの症状を末梢の阻血徴候の5Pといいます。
さらに手足の指を他動的に伸ばした際に痛みが増強する症状を加えて6Pとも呼ばれます。
末梢の阻血徴候の5P
・蒼白(Paleness)
・脈拍消失(Pulseless)
・痛み(Pain)
・運動麻痺(Paralysis)
・感覚障害(Paresthesia)
+
・手足の指を他動的に伸ばした際に痛みが増強する。(6P)
慢性型はランニングなどのスポーツ活動により、運動開始後に疼痛が出て、数十分の安静で症状が消失することが特徴です。
慢性型は筋肉の連続する伸び縮みによる筋肉の肥大や浮腫みに伴い、筋肉と区画とに容積のアンバランスが生じ、阻血状態が引き起こされるためです。
コンパートメント症候群の診断
コンパートメント症候群の以下のように診断されます。
視診・触診
痛みや腫れの部位、知覚障害、運動障害の有無、筋肉を伸張した際の痛みのチェックを行います。
※運動障害や筋肉を伸張した際の痛みは、各区画の項参照。
画像診断
レントゲンで骨折の有無、MRIで結衆の有無を確認します。
内圧測定
needle manometer法という方法で診断します。
検査用の針をコンパートメント内に差し込み、コンパートメント内が異常な圧になっていないかを確認します。
コンパートメント内の圧が30~40mmHg以上となった場合は異常値と判断されます。
(正常値は成人で5~10mmHg、小児で13~17mmHg)
コンパートメント症候群の治療
急性のコンパートメント症候群にて阻血状態が長時間続くと、神経障害や筋肉の壊死など不可逆的(元の状態には戻ることができない状態)な変化が生じて、予後不良となります。
急性コンパートメント症候群が疑われる場合、保存療法では改善が得られません。
直ちに外固定などによる圧迫の解除、または手術により原因となっている筋組織を切る方法(筋膜切開術)を行う必要があります。
一般に筋肉は4~12時間、神経は12~24時間の阻血状態で元に戻らなくなると言われており、コンパートメント症候群が疑われる場合は直ちに治療する必要があります。
慢性型の場合はリハビリなどの運動によって改善が得られる場合もありますが、症状によっては手術が必要な場合もあるため注意が必要です。
コンパートメント症候群による重篤な後遺症
前腕のコンパートメント症候群によって生じる後遺症としてフォルクマン拘縮と呼ばれるものがあります。
特徴としては親指が内側に傾き、他の4指の第3関節が反り返り、第1、第2関節が曲がった状態となります。
神経麻痺、筋肉の壊死が生じてしまっているため、一度フォルクマン拘縮となると元に戻る事は非常に困難であると言われています。
コンパートメント症候群のリハビリ方法
急性コンパートメント症候群の場合は迅速な対応が必要で手術をする事が多いです。
慢性型のコンパートメント症候群の場合は筋肉のストレッチや筋肉を収縮されるトレーニングによって改善が得られる事があります。比較的生じやすい下腿前方筋区画に存在する筋肉のストレッチ、トレーニング方法のみ紹介します。
前脛骨筋
ストレッチ
椅子に座りつま先を床に当てながらつま先を下に向ける(底屈)方向に伸ばします。スネの前が伸びているのを感じながら30秒以上ストレッチします。
筋力トレーニング
足の指を握ったままつま先を上に持ち上げます
長母指伸筋
ストレッチ
踵を持ち足首を外側に捻る(外反)方向に伸ばし、親指を曲げ、つま先を下に向ける(底屈)方向に伸ばしていきます。
スネの前が伸びている事を感じながら30秒以上ストレッチします。
筋力トレーニング
足の親指以外を指で押さえた状態で、親指だけを上に反らすように持ち上げます。
長趾伸筋
ストレッチ
踵を持ち足首を内側に捻る(内反)方向に伸ばして、足の親指以外の指を曲げながらつま先が下に向く(底屈)方向に伸ばします。
スネの前が伸びている事を感じながら30秒以上ストレッチします。
筋力トレーニング
足の親指を抑えた状態で他の指を反らすように上に持ち上げます。
まとめ
・コンパートメント症候群は打撲や骨折の後に生じる事があり迅速な対応が必要である。
・場合によっては筋肉の壊死、神経麻痺が生じ重篤な後遺症になる場合がある。
・治療は手術による筋膜切開が行われることが多い。慢性の場合は運動療法が有効な場合もある。