肘の骨折の治療と後遺症を防ぐリハビリを教えます。【完全版】
スポーツ時や転倒の際に手をついてしまうことで発症しやすい肘の骨折。
肘の骨折と言っても骨折する場所や病態によっていくつかの種類にわけられます。
今回は肘の骨折の種類とリハビリ方法について解説していきます。
肘の骨折とは
転倒したり、高いところから落下した時に手や肘を付くことで発症します。
子どもの転倒やスポーツでの転倒などで多く見られます。
肘の骨折の種類
肘の骨折の代表的なものは次のとおりです。
- 上腕骨顆上骨折
- 肘頭骨折
- モンテジア骨折
- 上腕骨外顆骨折折
肘関節とは
肘は
- 上腕骨(じょうわんこつ)
- 尺骨(しゃっこつ)
- 橈骨(とうこつ)
と呼ばれる骨で構成されています。
上腕骨
●上では肩関節を構成しています。
●下では肘関節を構成しています。
●肘の内側にある骨の出っ張りを内側上顆といいます。
●肘の外側にある骨の出っ張りを外側上顆といいます。
●多くの筋肉が付着します。
尺骨
●橈骨と比べるとやや細くて長いつくりとなっています。
●尺骨の先端は滑車切痕といわれるつくりとなっています。
●上腕骨の上腕骨滑車という部分にはまり込むようになり肘関節を構成しています。
橈骨
●尺骨と比べると太くて短いつくりとなっています。
上腕骨顆上骨折
出典:https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/orthopedics/section_2_00_01/
上腕骨の下の末端部(遠位部)の骨折です。
肘の骨折で最も多い骨折です。大人よりも子どもに多く見られます。
男女比は2:1で男性に多いのが特徴です。
高いところから肘を伸ばした状態で手をついて落ちた際や、肘を打った際にケガをします。子どもの場合は鉄棒やうんていなどから転落して骨折する事が多いです。
上腕骨顆上骨折の治療
骨折の正常の位置からズレる(転位と言います。)のが少ない場合は、手を用いて骨折の修復(徒手整復と言います。)をしてギプス固定をします。
ギプス固定はおおよそ3~4週間です。
骨のズレ(転移)が大きかったり、整復が困難な場合は鋼線で骨を固定するような手術を行うこともあります。
上腕骨顆上骨折の後遺症
次のような後遺症がのこることがあり注意が必要です。
①変形
●上腕骨顆上骨折は癒合しやすいとされていますが稀にズレて癒合してしまう事があります。
●すると腕を伸ばした時に、肘から先が内側に15°ほど曲がってしまう内反肘という変形をしてしまうケースがあります。
②神経や血管の損傷
●肘の周囲には正中神経、尺骨神経、橈骨神経という神経や血管が通っています。
●骨折部のズレが大きい場合、これらの神経や血管を損傷したり圧迫したりして障害が起きることがあります。
③循環障害
●骨折によって太い血管が傷ついて皮下で出血が生じると皮下にできた血腫に神経や血管が圧迫されて、壊死(血流が通わない事で組織が死んでしまう事)を起こすことがあります。
●肘から手首までの前腕部でこのような循環障害が生じてしまうことをフォルクマン拘縮といいます。
●症状は下記です。
- 前腕部の腫れ・痛み
- 指を曲げ伸ばしできない
- 指がしびれる
●重度となると皮膚が紫色になったり、脈拍が取れなかったり、運動麻痺がおこる事もあります。
④可動域が小さくなる
●肘の可動域が制限されて小さくなりやすいです。
●肘は伸ばす方向が0°、曲げる方向が145°が正常です。
●しかし、この角度まで曲げ伸ばしする事が困難になる事もしばしば見受けられます。
肘頭骨折
出典:https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/orthopedics/section_2_00_01/
肘頭とは、肘を曲げた際に出っ張っている部分です。(尺骨の先端部分の出っ張りの部分)
転倒したときに、肘が曲がった状態で強打したり肘を曲げて転倒し手を付いた際に、筋肉によって牽引される力によって骨折します。
肘頭骨折の分類
肘頭骨折は以下のColton分類によっていくつかのパターンに分けられます。
-
- Type1
剥離骨折。骨折線は真横に走ります。高齢者に多いです。
-
- Type2
骨折線は斜めに走します。転位や骨片(骨の欠片)によってさらに分類されます。
-
- Type3
脱臼を伴う骨折です。
-
- Type4
骨は粉砕し、肘頭だけでなく、上腕骨や前腕部の骨折も同時に起きてしまいます。
肘頭骨折の治療
肘頭骨折は転位(骨のズレ)が少ないものはギプス固定で保存療法が選択されます。
骨のズレが大きいときは手術が行われます。手術は、骨を整復後鋼線を挿入して固定する方法が行われます。
- 保存療法では約1ヶ月程度のギプス固定をします。
- 手術療法では2~3週間程度ギプス固定をします。
モンテジア骨折
1814年にmonteggiaという人物が発表した骨折で、尺骨の骨折と橈骨の脱臼が合併した病態をモンテジア骨折といいます。
重要なポイントは骨折と脱臼が同時に起きてしまっている事です。
特に子供に多い骨折です。
転倒した際に手を付き、前腕部が強制的にねじられることでケガをします。
子供の場合は骨が柔らかいので、尺骨がポキっと折れるというよりもグニャッとしなるように彎曲するような状態になる事があります。
尺骨の骨折と橈骨の脱臼が同時に起きる!橈尺関節について
出典:http://www.byomie.com/gallery/vol11/galleryvol11-04.html
橈骨と尺骨は近位橈尺関節・遠位橈尺関節という関節を構成しており靭帯によって補強されています。
モンテジア骨折の場合はこの近位橈尺関節の脱臼で、橈骨の位置が『脱臼』つまり元の位置からズレてしまうのです。
※脱臼とは関節が正常の位置から大きくズレてしまう事(逸脱)をいいます。
モンテジア骨折の分類
モンテジア骨折は骨折の形から以下の4つのタイプに分類されます。
タイプⅠ型
●橈骨の前への脱臼
●尺骨骨折前への転移
※このタイプ1がモンテジア骨折の大部分を占めます。
全体の約60~70%です。
タイプⅡ型
●橈骨頭の後方、または後外側への脱臼
●尺骨骨折後方への転移
※成人に多いタイプです。
全体の約5%です。
タイプⅢ型
●橈骨頭の外側または前外側への脱臼
●尺骨骨折
※子ども特有の骨折です。
全体の約15%です。
タイプⅣ型
●橈骨頭の前方脱臼が起きます。
●橈骨と尺骨の骨折です。
とても稀なタイプで全体の約1%です。
モンテジア骨折の治療
モンテジア骨折でタイプⅠ~Ⅲでは基本的に手を用いて骨折の修復(徒手整復と言います。)ギプス固定による治療が選択されます。
子どもの場合もまず手を用いて骨折の修復をして、変形や脱臼を元の位置に戻します。そしてその後ギプス固定をして、骨折の治癒を待ちます。
しかし、骨折の元の位置からズレる(転位)が大きくて、整復が困難な場合や、骨折してから時間が経過しているなどの場合は手術が行われることがあります。
手術の流れ
- まず尺骨の転移を整復
- 金属プレートやピンなどで固定をします。
尺骨が整復され、固定された状態でないと橈骨の脱臼を整復する事が困難になります。
モンテジア骨折の後遺症
モンテジア骨折は神経麻痺の合併症に注意が必要です。
モンテジア骨折によって橈骨頭が脱臼をすると、その近くを通っている橈骨神経を傷つけてしまったり、圧迫をしてしまう事があります。
その結果、手首を上に返す事や指を伸ばす事ができない下垂手と呼ばれる状態になる事があります。
橈骨神経に支配されている筋肉
橈骨神経は「とうこつしんけい」と読みます。
橈骨神経は主に肘や手首、指を伸ばす筋肉を支配しています。
橈骨神経に支配されている筋肉は次のとおりです。
●上腕三頭筋
●上腕筋
●回外筋
●長橈側手根伸筋
●短橈側手根伸筋
●尺側手根伸筋
●総指伸筋
●小指伸筋
●長母指外転筋
●長母指伸筋
●短母指伸筋
●示指伸筋
上腕骨外顆骨折
上腕骨の外側の骨の突出部分の骨折です。とても多い骨折です。この骨折も転倒や転落により、手をついた際に骨折をします。
特に子どもでは骨の成長(身長が伸びる)のに関係する骨端線と呼ばれる部位での骨折の場合、見極めが困難となる事があります。
骨のズレが少なければギプス固定、骨のズレが大きければ手術を行います。
上腕骨外顆骨折の後遺症
固定が不十分であった場合、骨が癒合せず、関節のように骨折部が動いてしまう偽関節となる事があります。
偽関節になった場合は、将来的に次のような後遺症がでることがあります。
- 腕を伸ばした時に、肘から先が外側に曲がってしまう外反肘という変形がおこる
- 尺骨神経麻痺小指や薬指にシビレが生じたり、力が入れにくくなる。
肘の骨折後のリハビリ
骨折の後は肘が伸びない・曲がらないといった状態になりやすいです。
屈曲:曲げる動きがうまく出来ない。
回外:肘を曲げた状態で掌を上に向ける事がうまく出来ない。
回内:肘を曲げた状態で掌を下に向ける事がうまく出来ない。
肘は骨折後や手術後に可動域が小さくなってしまう事の多い関節です。
正常の可動域と比較しても、曲げにくい、伸びにくいといった後遺症を出てしまい、リハビリも大変です。
無理に強くストレッチしたり、無理な強い力で動かすと、肘周囲の組織で出血を起こし、それが骨化してしまう事もあります。
このように骨以外の組織(靭帯や筋肉など)が骨化してしまうのを異所性骨化といいます。異所性骨化が起こると、より可動域がさらに小さくなってしまいます。
特に肘は異所性骨化を起こしやすいため注意が必要です。
そのため状態に合わせて理学療法士や作業療法士の指導のもとリハビリを行います。自身の判断で無理やり伸ばすようなストレッチは避けましょう。
肘関節を覆っている関節包という膜を柔らかくするリハビリ方法を教えます。
筋肉の収縮を利用する事で関節包の動きを改善します。関節包が硬くなると可動域が小さくなってしまっているのを改善させることは困難になります。
肘の屈曲
台の上に肘を置き、手の甲を顔に向けた状態で肘を曲げる運動を繰り返します。
この位置で肘を曲げると上腕筋という肘の筋肉が収縮します。
上腕筋は関節包と連結しているため、収縮をさせる事で関節包を引き出す作用があります。
肘の伸展
肩を後方に引き、軽く内側に捻った状態で肘を伸ばす運動を繰り返します。
この位置で肘を伸ばすと上腕筋三頭筋の内側が収縮します。
上腕三頭筋内側頭は関節包と連結しているため、収縮をさせると関節包を引き出す作用があります。
まとめ
●肘の骨折について比較的頻度の多いものを挙げました。転倒や転落による受傷が多いため、小児、成人、高齢者など受傷する人は多岐にわたります。
●肘の骨折の後は後遺症をきたす事が多く、リハビリを行っても可動域に制限がみられることが非常に多く、治療に苦渋します。
●医師、理学療法士、作業療法士による適切な治療、リハビリを受ける事が重要となります。
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