大腿骨頸部骨折の原因・症状・治療・リハビリ・全知識
高齢者に多い骨折として大腿骨頸部骨折があります。
一昔前は、この骨折をすると寝たきりになってしまうというという事も耳にしましたが、実際どのような骨折なのでしょうか。
今回は大腿骨頸部骨折について治療方法とリハビリについて解説していきます。
大腿骨頸部骨折とは
大腿骨頸部骨折は、太ももの骨である大腿骨の骨折です。
高齢者に多くみられます。
年間約10万人程度の人が受傷するといわれ、特に女性に多いとの報告があります。
大腿骨は人が立ったり、歩いたりするためには欠かせない骨で、この大腿骨が機能しないと日常生活に多大な支障をきたしてしまいます。
大腿骨頸部骨折は受傷すると、自然に骨が修復する事は非常に困難で、そのほとんどが手術の適応となります。
そもそも大腿骨頸部とは?
大腿骨は太ももにある骨で、骨盤にハマり込んでおり股関節を構成しています。
ハマり込んでいる丸い部分を「大腿骨骨頭」。
その下の細くくびれている部分を大腿骨頸部といい、この大腿骨頸部の骨折が大腿骨頸部骨折です。
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大腿骨頸部骨折は治りにくい?
大腿骨頸部骨折は他の部位の骨折のように、ギプス固定しても自然修復をする事が難しいとされています。
その理由として、
①大腿骨頸部から大腿骨頭部分は血液供給が乏しい事
②骨を融合するのに重要な外骨膜がない事
ということから骨が癒合しにくいです。
そのため、大腿骨頸部骨折の後に偽関節(骨折部が関節のように過剰な可動性を有してしまう状態)になったり、骨頭部分が潰れて壊死してしまったりしてしまう事があります。
大腿骨頸部骨折を受傷した場合は、ほとんどが手術となります。
大腿骨頸部よりもやや下の部分の骨折を「大腿骨転子部骨折」といいます。
転子部骨折の場合は大腿骨頸部よりも血液供給が豊富なため骨癒合は得られやすくなっています。
頸部骨折か転子部骨折かによっても治る具合が変わってくるので、見極めが重要です。
大腿骨頸部骨折の原因
大腿骨頸部骨折の主な原因は転倒による事がほとんどです。
大腿骨頸部骨折は高齢者、特に女性に多いとされていますが、それには「骨粗しょう症」が関係しています。
骨粗しょう症とは?
骨密度の低下によって骨が脆くなり骨折しやすくなる骨の疾患です。
骨は人が生まれてから死ぬまで新陳代謝を繰り返しています。
骨は常に新しいものが再生され、古いものは壊されていく仕組みとなっています。
新しい骨を作る「骨形成」と、骨を壊す「骨吸収」の2つのサイクルによって新陳代謝が繰り返されています。
このような骨の新陳代謝のサイクルを「リモデリング」と呼んでいます。
骨粗しょう症は、この骨のリモデリングのバランスが崩れてしまい骨の破壊が進行してしまう事で起こります。
骨粗しょう症になると骨を破壊する破骨細胞が活発に働く一方、骨を形成する骨芽細胞の働きが弱くなり、骨の密度が低下してしまいます。
骨粗しょう症が女性に多い理由
骨粗しょう症が女性に多い理由は、ホルモンの働きが関係しています。
女性ホルモンの一種である「エストロゲン」というホルモンは骨吸収の働きを抑えて、骨からカルシウムが溶け出すのを抑制する働きがあります。
女性は閉経後、このエストロゲンの分泌が弱まってしまい、骨吸収を抑える事ができなくなります。これによって骨粗しょう症は女性に多く発症するのです。
骨粗しょう症になった骨は脆く脆弱であるため、転んだりすると骨折しやすくなっています。
特に大腿骨頸部は、細くなっている部分なので外力に弱く骨折をしやすい部分であるといわれています。
大腿骨頸部骨折の症状
大腿骨頸部骨折を受傷すると以下のような症状がみられます。
・足の付け根部分(鼠径部)に強い痛みが生じる
・痛みで立ったり、歩いたりする事ができなくなる
・深くしゃがむ、あぐらをかくといった股関節を曲げる動きぐ痛みでできなくなる
立つ、歩くといった事が困難になるため日常生活に大きな支障をきたします。
大腿骨頸部骨折の診断
大腿骨頸部骨折は整形外科にて診断を受ける事ができます。
レントゲン検査にて骨折部分を診断します。
骨折が明確に見えにくい場合はMRI検査を行う事もあります。
大腿骨頸部骨折の分類
大腿骨頸部骨折は骨折の程度や転位の状態によって4つのステージに分類されます。
この大腿骨頸部骨折の分類を「Garden(ガーデン)分類」といいます。
●ステージⅠ…不完全骨折
内側で骨性連続が残存しているもの
(骨にひびが入っている状態でもっとも軽度)
●ステージⅡ…完全嵌合骨折
軟部組織の連続性は残存しているもの
(完全骨折ではあるが、転位がない)
●ステージⅢ…完全骨折:骨頭回転転位あり
weitbrecht支帯の連続性が残存しているもの
(完全骨折で、転位がある)
●ステージⅣ…完全骨折:骨頭回転転位なし
すべての軟部組織の連続性が断たれたもの
完全骨折で、大きな転位がある
・
大腿骨頸部骨折の治療方法
大腿骨頸部骨折を受傷した場合、そのほとんどが手術となります。
手術は大きく骨接合術と人工骨頭置換術とに分けられます。
骨折の状態や患者さんの年齢などを考慮してどちらが良いかを判断します。
骨接合術
骨接合術は骨折した部分を、ピンやネジなどで固定する方法です。
メリットとして手術の際の傷が小さくて済む事、手術時間が短い事、術後の感染のリスクが少ない事があげられます。
人工骨頭置換術
人工骨頭置換術は、骨を癒合させる事はあきらめて、大腿骨の頸部から骨頭部分を人工でできた骨に置き換えてしまう方法です。
人工の素材は金属、セラミックス、ポリエチレンなどが使用されています。
メリットとしては手術後に偽関節(骨が癒合せずに関節のような過剰な可動性を持ってしまう状態)や大腿骨頭の壊死などの合併症がない事があげられます。
手術後の合併症について
大腿骨頸部骨折の手術方法は骨接合術、人工骨頭置換術がありますが、そのどちらにおいても合併症があります。
どのようなものなのか見ていきましょう。
骨接合術の合併症
骨接合術の場合、骨折部の骨が癒合しないでグラグラと関節のような過剰の可動性を持ってしまう「偽関節」になったり、骨頭が壊死してしまったりするリスクがあります。
大腿骨頭に血液や栄養を送っている血管が損傷を受けていた場合、血液が行き届かず、壊死を起こしてしまいます。
人工骨頭置換術の合併症
人工骨頭置換術の場合、手術後に骨が外れてしまう脱臼を起こすリスクがあります。
脱臼を起こした場合、医師による整復を受ける必要があります。
脱臼のリスクがある姿勢
股関節を深く曲げたり、曲げた状態で内側に捻ったりすると脱臼するリスクが高まります。
写真は患側が右の場合です。
こんな姿勢もよくありません。
また人工骨頭は将来的に緩んでくる事があるため、再び手術をして新しいものに交換する必要があります。
一般的に人工骨頭の寿命は25〜30年といわれています。
高齢者の場合は問題ないですが、若い人は再び手術をしなければならないという事を念頭に置かなければなりません。
大腿骨頸部骨折後のリハビリ
大腿骨頸部骨折にて手術を受けた場合はリハビリを行います。
主な内容は関節の動きを改善する可動域訓練や筋力増強訓練、立位バランス訓練、歩行訓練です。
医師や理学療法士の指示の元に行っていきます。
手術して退院後などに自分でも行える股関節周りの筋力増強訓練を紹介していきます。
大腿骨頸部骨折のリハビリ①大殿筋
股関節を支えるのに重要なお尻の筋肉を鍛える運動です。
仰向けに寝た状態で両膝を曲げます。
その状態からお尻を持ち上げて姿勢を保持します。
5~10秒ほど止めて10回繰り返します。
大腿骨頸部骨折のリハビリ②中殿筋
股関節を支える中殿筋という筋肉を鍛える運動です。
写真のように横向きで寝て、足を真上に挙げます。
その時身体が後ろに倒れたり、足が前に出すぎたりしないようにして行います。
5~10秒ほど保持するのを10回繰り返します。
※個人個人で症状は異なってくるので医師や理学療法士の指示の元、その人に合った運動を行う事が大切です。
まとめ
・大腿骨頸部骨折は高齢者に多い骨折で、骨粗しょう症により骨が弱った状態での転倒が主な原因として挙げられる。
・治療としては手術療法が第一選択肢となる。