プロ野球選手も実践!ルーズショルダーの治療法・トレーニング全知識
プロ野球ファンなら一度は聞いたことがあるかもしれないルーズショルダー
でもどんな症状なのか?治し方は?知らない事が多いスポーツ障害のひとつです。
今回はルーズショルダーのリハビリの為のストレッチと筋トレを解説します。
ルーズショルダー(肩関節不安定症)とは
ルーズショルダーとは肩関節不安定症とも呼ばれ、その名の通り肩関節が緩く、不安定で外れやすい状態です。特に野球選手や水泳選手、バドミントンなどで腕を大きく回す事の多いスポーツやラグビーや柔道などのボディコンタクトの多いスポーツで多く発症します。
ルーズショルダーの症状
肩の動作時に痛みやだるさ、疲労感を感じます。また腕を上げたり、振りかぶると肩が抜けてしまいそうな感じや不安定さを感じます。
時に腕にしびれを伴ったり、可動域に制限が出る事もあります。
ルーズショルダーの原因
ルーズショルダーになる原因は大きく分けて以下に分けられます。
●先天的(生まれつき)関節が柔らかく緩い場合
●怪我や使い過ぎなどが原因で後天的に緩くなる場合
●肩のアウターマッスルとインナーマッスルのバランスが崩れてしまって緩くなる場合
元々肩関節というのはあまり安定性に優れた関節ではありません。しかし他のどの関節よりも可動性に優れており、360°色々な方向に動かす事が可能です。
可動性に優れている分、安定性に欠けるというのが特徴です。まずは肩関節の構造について解説していきます。
肩の関節は元々「はまり」が浅い!
一般に肩と呼ばれる部位は肩甲骨と上腕骨で構成されている関節で肩甲上腕関節と呼びます。
肩甲骨がソケットの役割でそこに上腕骨がハマりこんでいる形となります。このような形状の関節を球関節と呼びます。
人間の身体では股関節も球関節に含まれますが、肩と股関節ではソケットの大きさが違うのが特徴です。
図のように股関節の骨盤の部分のソケットは大きく、大腿骨が深くハマる作りとなっています。そのため、安定性に優れていて滅多に外れる事はありません。
しかし図のように肩関節のソケットは小さく浅い作りとなっています。そのためハマりが浅く関節の構造自体が不安定な作りとなっているのです。
骨だけの構造では安定性に欠けるため、それを筋肉や靭帯が補強する形で安定性を得ているのです。
また関節唇と呼ばれる車止めのような役割を果たしている重要な組織や関節包と呼ばれる関節を包んでいる膜も安定性に関与します。
先天的に関節が緩い場合は、ソケットの役割をする肩甲骨側の関節窩に何らかの形成不全があり起こる事があります。骨の形状が生まれつき浅かったり、骨がうまく成長せずに浅くなったりして不安定な状態です。
後天的になる場合は、転倒や強い衝撃など一回の強いストレスによって筋肉や靭帯、関節唇や関節包などが損傷を起こしてなる場合、オーバーユースにより繰り返しかかるストレスによって組織が損傷を受けてなる場合の2パターンに分けられます。
靭帯や関節包の損傷の度合いによっては脱臼が繰り返し起こる事もあります。
生まれつき関節が柔らかい人は要注意
身体が硬いと怪我をしやすいというのは多くの人が持っている認識かと思います。
となると身体が柔らかいに越した事はない!という認識になるかと思いますが、実は柔らかすぎるのも怪我を起こしやすいのです。
柔らかすぎる傾向の人は関節が緩くなっている可能性が高いです。関節が柔らかすぎると、靭帯など関節を守っている組織が伸びる許容範囲を超えて動かされるため損傷を起こしやすくなります。
この関節の緩みを評価するcarter(カーター)徴候という評価法を紹介します。
あなたもルーズショルダー?関節の緩みのチェック方法
上の図の動きで関節の緩さを評価します
①親指を手首の方に曲げて親指が付くか
②指を後ろに反らした時に腕と平行になるまで反るか
③肘を目一杯伸ばした時に0度以上反るか
④膝を目一杯伸ばした時に10度以上反るか
⑤踵を地面に付けたまま膝を曲げて足首が45度以上曲がるか
この5つの項目のうち3つ該当すると全身性に関節が緩いと判断されます。
さらに
・背中で指を組めるか
・膝を伸ばして前屈して手のひらがペッタリ付くか
・立った姿勢で踵と膝をつけてつま先が180度開くか
の3つを加えたルースネステストというものもあります。
これらの該当項目が多いほど関節が緩いという事になります。
ルーズショルダーになったプロ野球選手
ヤクルト 伊藤智仁
150キロを越える剛速球と145キロの高速スライダーが武器でルーキーイヤーから大活躍。
キャッチャーとして高速スライダーを受けていた古田敦也をして「打者だったら絶対に打てない」と評した。伊藤智仁はルーズショルダーで肩の動きがしなやかだからこそ、あの高速スライダーを投げられたと言える。ルーズショルダーは諸刃の刃だった。
ソフトバンク 斉藤 和巳
ホークスの大エース。最多勝2回。最優秀防御率2回。最多奪1回。沢村賞受賞2回。最優秀投手3回という記録を持つ。150キロの速球とスライダー・フォークどれをとっても超一流。
ルーズショルダーは高校時代から自覚していた。右肩腱板損傷で戦線離脱。6年間かけてリハビリをし復帰を目指すも願いはかなわず2007年に引退。
広島 津田 恒実
広島カープのファンはいつまでも忘れないであろう大投手。
剛速球にこだわりバッターに対して常に真っ向勝負のピッチングは「炎のストッパー」と言われる。「弱気は最大の敵」が座右の銘。ルーズショルダー・血行障害からカムバック。ストレートにとことんこだわったピッチングはファンを大いに湧かせた。脳腫瘍で32歳で逝去したのは本当残念だ。
広島 横山 竜士
入団3年目の1997年に56試合に登板し10勝5敗という成績をあげるがルーズショルダーを発症。しかし横山はピッチングスタイルを変えコントロールと投球術で中継ぎとして18年に渡り広島の貴重な中継ぎとしてマウンドを守った。
巨人 澤村 拓一
155キロの剛速球を駆使し力で打者を抑え込む。またスライダー・フォーク・カーブも使う。
2011年のルーキーーイヤーから先発として活躍。その後、2015年にはクローザーに転向。
ルーズショルダーの治療法
ルーズショルダーと診断された場合、その原因がどこにあるかによって治療法が異なってきます。
先天的に関節が緩い場合や関節唇、関節包が損傷して不安定になってしまった場合はその構造自体が問題であるため改善が困難となる事も多いです。
保存療法(手術や傷んだ組織の摘出などは行わない治療法)で経過を見ますが、改善が得られない場合は手術を行う事もあります。
保存療法では患部への局所注射やリハビリを行います。手術としては伸びきって緩んだ靭帯や関節包を再建する方法や関節に熱を加えて収縮させる方法が行われます。
ルーズショルダーのリハビリ・トレーニング
肩の筋肉は表層にあるアウターマッスルと深層にあるインナーマッスルとにわけられます。
大胸筋や広背筋などの大きく表面にある筋肉はアウターマッスルに含まれます。棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋は回旋筋腱板またはローテーターカフとも呼ばれインナーマッスルに含まれます。
肩が安定して動くためにはこのアウターマッスルとインナーマッスルとのバランスが非常に大事になります。
アウターマッスルは主に腕の大きな運動を引き起こし、強い力を発揮します。逆にインナーマッスルは大きな運動や強い力は発揮しませんが、上腕骨(腕の骨)を肩甲骨に近づけて安定させたり、骨の位置を微調整する役割があります。
このアウターマッスルが過剰に働き、インナーマッスルの働きが弱いと肩が不安定となりやすくなります。ルーズショルダーの人はインナーマッスルの働きはが十分でない事が多いです。
一般に行われている重たいダンベルを持った運動やジムにあるベンチプレスなどはアウターマッスルを過剰に使う筋力トレーニングであるため、やり過ぎに注意が必要です。
ルースショルダーの為の筋トレ方法
インナーマッスルは強い力を発揮する筋肉ではないのであまり強い負荷でのトレーニングは効果が得られません。ダンベルで言うと3Kgまでの重さが望ましいです。
用意するもの
セラバンド
棘上筋筋トレ
写真のようにセラバンドを使用し、腕を30°程度横に挙げます。
体が横に倒れたり、手首や指に力が入りすぎると棘上筋がしっかりと働きません。
肩甲下筋筋トレ
セラバンドを手すりなどに固定し、肘を90°に曲げて脇をしめます。
脇が開かないよう、手をお腹から遠ざけるように内側に捻ります。
体が捻らないように、手首や指に力が入りすぎないようにするのがポイントです。
棘下筋筋トレ
セラバンドを手すりなどに固定し、肘を90°に曲げて脇をしめます。
脇が開かないよう、手をお腹に近づけるように外側に捻ります。
体が捻らないように、手首や指に力が入りすぎないようにするのがポイントです。
ルーズショルダーには肩甲骨の安定を
先ほど説明したインナーマッスルの棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋を見ると全て肩甲骨から上腕骨についています。このインナーマッスルが効率よく働くためには肩甲骨が安定している事が必要条件です。
肩甲骨は肋骨に囲まれた胸郭という部分の上に浮かんでいるようにあり、筋肉によって固定されています。よって肩甲骨を支えている筋肉が弱ると肩甲骨が不安定となり、インナーマッスルの筋力も十分に発揮されません。
最近はスマホやタブレットの普及にて猫背で下を向く時間が長い人が増えています。そうすると頭が背骨より前に出ていて、猫背となり肩甲骨が外に開いた姿勢となっている事を多く見かけます。
すると肩甲骨を支えている僧帽筋という筋肉が働きにくくなり、結果的にインナーマッスルの機能の低下と繋がります。
つまりインナーマッスルを効率よく働かせるためには肩甲骨や背骨の動きも大切なのです。
以下に僧帽筋の筋力トレーニングと猫背姿勢改善のストレッチをお伝えします。
僧帽筋トレーニング
図のようにバンザイをして壁に手の甲をつけた位置から、壁から手を離して肩甲骨を内側に寄せていきます。顎を引いてお腹を凹ませることがポイントです。
胸椎伸展ストレッチ
バスタオルを丸めた物を肩甲骨の下に敷き、両腕をバンザイします。
背骨が伸びているのを感じて30秒以上ストレッチします。
胸椎伸展・僧帽筋筋トレ
四つ這いで、鍛える方の手を頭の上に回します。
そのまま肘を上に突き上げ、肩甲骨を内側に寄せていきます。
※代表的なリハビリ方法を載せていますが、個人個人で身体状態は違うため、医師や理学療法士、トレーナーの指導の元、自分の病態にあったトレーニングをすることが大切です。
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まとめ
●ルーズショルダーは生まれつき関節が緩い先天性の場合と怪我によって生じる後天性の場合がある
●肩の構造自体に問題があり、治療しても改善が見られない場合は手術となる
●肩のインナーマッスルを鍛えると肩の安定性を得る事が出来るため有効である
豊田早苗(医師)●文
桜井佑葵(理学療法士)●文
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