膝蓋骨骨折の原因・症状と診断・治療・リハビリ全知識
一般にいわれる「膝のお皿が割れた」という病態。
膝のお皿は医学的には膝蓋骨といい、お皿が割れるという事は骨折です。
今回は膝蓋骨骨折の治療とリハビリについて解説していきます。
膝蓋骨骨折とは
膝蓋骨とは膝のお皿のことをいいます。
一般にお皿が割れるといわれている状態は膝蓋骨骨折です。
下肢の外傷の中でも比較的頻度の多い骨折で、高齢者やスポーツをしている人に多くみられます。
膝蓋骨骨折は全骨折の約1%を占め、若い世代に比較的多く、約65%が男性にみられます。
主な原因としては大きく2つあります。
①直接外力が膝蓋骨に加わる「直達外力」
②太ももの前にある大腿四頭筋を介して外力が加わる「介達外力」
です。
直達外力では、転倒や交通事故などで膝蓋骨を直接ぶつける事で受傷します。
介達外力では、スポーツなどで大腿四頭筋が強力な収縮や牽引を強いられた時に受傷します。
膝蓋骨とは
一般に膝のお皿といわれている膝蓋骨はどのような役割があるのかを解説していきます。
膝蓋骨は膝の前面に存在して、上に大腿四頭筋、下に膝蓋腱が連結しています。
その役割は大きく2つ挙げられます。
膝蓋骨の役割①膝の保護
前方からの外力から膝を守る盾のような役割を果たしています。
交通事故や転倒などで強い外力が加わると骨折する事もあります。
また膝蓋骨は大腿骨と膝蓋大腿関節を形成し、膝関節の曲げ伸ばしの際の摩擦を軽減させているという役割もあります。
膝蓋骨の役割②力の伝達
膝蓋骨は下を膝蓋腱(または膝蓋靭帯)、上を大腿四頭筋が連結しています。
大腿四頭筋は膝を伸ばす作用がありますが、膝蓋骨がその力を発揮しやすいように伝達する役割を担っています。
膝蓋骨の動きに硬さや異常があると、大腿四頭筋が効率よく働きません。
膝蓋骨骨折の症状
膝蓋骨骨折を受傷すると患部に強い痛みが生じます。
特に膝を曲げる動きや床に膝をつくような動作は痛みのためできなくなります。
また膝蓋骨周囲に腫れ、熱感、発赤といった炎症所見がみられます。
膝蓋骨骨折の分類
出典:整形外科運動療法ナビゲーション 下肢・体幹
膝蓋骨骨折は骨折形態、または部位によって次のように分類されます。
骨折の形態または部位
- 横骨折
- 縦骨折
- 星状(粉砕)骨折
- 遠位端粉砕骨折
骨折の程度
- 亀裂骨折
- 離開骨折
- 星状骨折
特殊な骨折
- 骨軟骨骨折
- sleeve骨折
この中でも多いのは横骨折で膝蓋骨骨折の50-80%を占めます。
次いで星状(粉砕)骨折、縦骨折となっています。
膝蓋骨骨折の診断方法
膝蓋骨骨折が疑われる場合は整形外科を受診しましょう。
整形外科ではレントゲン検査を行い、膝蓋骨骨折かどうかの診断をします。
ほとんどがレントゲン検査にて判別できますが、より詳細に診断する場合や他の組織(靭帯や半月板など)の損傷も疑われる場合にはMRI検査を行う事もあります。
膝蓋骨骨折の治療方法
膝蓋骨骨折が疑われた場合にまず行われる応急処置としてRICE処置という方法があります。
RICE処置
①肉離れになってしまったら、まず2〜3日はRICE処置をします。
RICE処置とは
Rest(安静): 患部を極力動かさない。
Ice(冷却): 患部を冷やして血管を収縮させて腫れや熱感を最小限に留める
Compression(圧迫): 患部を適度に圧迫して腫れ、炎症を抑える
アイシングの方法として、氷やコールドスプレーを使用して冷やす人がいますが、これは冷やしすぎで、かえってケガの回復を遅らせてしまいます。
正しい方法は、氷と水をビニール袋などに入れて冷やします。
氷だけはダメです。かならず水も一緒に入れて、氷が溶けていく温度の水で冷やしましょう。
Elevation(挙上): 心臓よりも高い位置に患部を置き腫れ、炎症を抑える
受傷後のRICE処置を行うかでその後の回復が大きく変わってきます。まずは腫れや炎症を最小限に抑えることが大切で、そのためのRICE処置となります。
注意!
特に痛めてすぐの急性期は患部を温めたり、マッサージをしたりすると腫れが悪化するため要注意です。またストレッチも損傷部位をさらに広げてしまうため厳禁です。
膝蓋骨骨折の治療法
膝蓋骨骨折を受傷した後の治療方法には保存療法と手術療法の2つが選択されます。
保存療法
保存療法は手術などの外科的な処置を行わない治療法で、膝のサポーターやギプスを装着して骨折の治癒を待ちます。
一般的に膝蓋骨骨折の転位がない場合に保存療法が選択される事が多いです。
ニーブレースという膝が曲がらないように固定するサポーターやギプスを4週間程度使用して、曲がらないようにして、膝蓋骨にストレスがかからないように保護します。
その後骨折の治癒の状態に合わせながら、徐々に体重をかけたり、膝を曲げたりするリハビリを進めていきます。
8〜10週を目安に曲げる角度を全可動域動かせるようにリハビリを進めていきます。
手術療法
手術療法は保存療法では治る見込みがなく、転位や関節面に段差がある場合に行われます。
手術療法には様々な方法がありますが、一般的に頻度の高いZuggurtung法(ツークグルツング法)について解説します。
別名Tension band wiring法とも呼ばれ、膝蓋骨骨折の中でも頻度の高い、横骨折や粉砕骨折に対して行われます。
骨折した膝蓋骨をワイヤーで固定し、手術後は膝を曲げれば曲げるほど、骨折部に圧迫力が加わり骨の癒合を促進します。
手術後、約3週間はギプス固定をします。
その後、医師の指示の元、膝を曲げる角度を徐々に増やしていき、8〜10週で全可動域曲げる事を目標に進めていきます。
膝蓋骨骨折の後遺症
膝蓋骨骨折の後遺症として、膝蓋靭帯が短縮してしまう事があります。
そのため深く曲げた際にお皿の下が突っ張ったり、曲げにくく感じたりする事があります。
膝蓋骨骨折完治までの期間
一般に保存療法、手術療法ともに受傷後8〜12週で全可動域が可能になり、負荷の高い筋力訓練も可能となります。
この頃では日常生活には大きな支障もなく過ごせます。
仕事復帰はデスクワークなど、膝に負担がかからないものなら早期に復帰可能です。
スポーツ復帰となるとここから競技動作訓練や試合感覚を戻す事が必要となるため、4ヶ月から6ヶ月程度が目安となります。
正座の獲得には個人差があり、半数は正座可能となりますが、可動域に制限が残存すると正座困難になる場合もあります。
膝蓋骨骨折のリハビリ
手術後や保存療法時にリハビリを行います。
リハビリでは動かなくなってしまった関節の可動範囲を広げる関節可動域訓練、衰えた筋力を回復させる筋力増強訓練を中心に行います。
回復に合わせてバランス訓練や動作訓練を行なっていきます。
手術療法、保存療法ともに医師の指示の元、曲げる角度や体重をかける量などコントロールして、骨折部に負担がかからないように進めていきます。
無理に曲げたり、暴力的に動かすと骨折部が転位したり、後に後遺症をつくったりしてしまうため注意が必要です。
病院にて医師、理学療法士の指示の元リハビリを進めていきましょう。
一般的に行われる膝蓋骨骨折後のリハビリの方法をいくつか紹介していきます。
ヒールスライド
足の下にタオルなど滑りやすい状態にして、自分の力で膝を曲げていきます。
膝の曲げる角度は医師や理学療法士の指示の元、決まった範囲で行います。
セッティング
膝蓋骨が付着する大腿四頭筋を強化する運動です。
膝の下にボールや枕などを置き、踵を床から離すように膝を伸ばして大腿四頭筋を収縮させます。
膝を曲げずに大腿四頭筋を収縮させるため、早期から行われます。
パテラモビライゼーション
膝蓋骨周囲にある靭帯などの軟部組織の硬さを改善させるため、膝蓋骨を動かします。
受傷4週頃を目安に行います。
動作訓練
スクワットや片脚立ち、階段昇降などの動作訓練も行います。
膝の可動域や筋力が回復し、全体重をかけても良いという許可を得てから行なっていきます。
まとめ
・膝蓋骨骨折は膝のお皿の骨折で、転倒や交通事故、スポーツなどで生じやすい。
・転位の程度によって保存療法と手術療法とに治療方法が分けられる。
・無理に膝を曲げたり、体重をかけたりすると後遺症を残しやすく、骨癒合も遅れるため、リハビリは医師、理学療法士の指示の元に行う必要がある。