腓骨筋腱脱臼の症状・原因・治療・リハビリ・全知識
スポーツに多い足首の怪我といえば捻挫ですが、腓骨筋腱脱臼という稀な怪我も存在します。
あまり聞き慣れない怪我ですが、スポーツでは比較的見られる事も多いこの怪我について解説していきます。
腓骨筋腱脱臼とは
腓骨筋腱脱臼とは、サッカーやスキーなどで多くみられる足首の怪我です。
腓骨筋の腱が本来存在する位置から外れてしまう病態をいいます。
スポーツをしているアスリートに多くみられ、体重がかかった時に踏ん張ったり、ターンをしたりしたときに生じやすいのが特徴です。
腓骨腱脱臼は、つま先が上に向く動き(背屈)が強制される事で受傷する事が多いです。
腓骨筋について
まず腓骨筋について解剖学的に解説します。
腓骨筋腱脱臼とはどのような状態
腓骨筋は外くるぶしの外側を通って腱が走行しています。
その腱がズレたりしないように、筋支帯というバンドのようなもので固定されています。
ふだんは足首に負担がかかっても、筋支帯が腱をしっかりと固定しているためズレる事はありません。
腓骨筋腱脱臼とは、急激な力が加わる事で筋支帯を破り、腱が外くるぶし方向にズレてしまう状態をいいます。
腓骨筋腱脱臼の症状
腓骨筋腱脱臼では以下の症状がみられます。
- 運動時、ダッシュやターンなどで外くるぶしに痛みが出る
- 外くるぶし周囲に腫れや熱感がある
- 外くるぶし周囲に腱がズレる感じがする
- 外くるぶし周囲が不安定な感じがする
腓骨筋腱脱臼の原因
症状が足首の捻挫と似ているため、よく捻挫と間違えられます。
捻挫は内側にひねってしまうという、はっきりした受傷起点がありますが、腓骨筋腱脱臼はひねらなくても生じるのが特徴です。
●足首の背屈+内転の強制
●足が固定された状態での下腿の外旋強制
です。
つま先が内に向いた状態で、写真のように踏み込むととなります。
足が床についた状態で下腿が外に向くと外旋強制になります。
特にサッカーやバスケッボールなどのターンやジャンプなどで、足が地面に踵までついた状態で体重が過度にかかった時になりやすいです。
またスキーやスノーボードのなどで下腿が強制的に外旋した際にもなりやすいです。
腓骨筋腱脱臼はサッカー選手に多い
プロサッカー選手にも腓骨筋腱脱臼はよくみられます。
腓骨筋腱脱臼を受傷した主なサッカー選手
宇佐美貴史
日本代表 ミッドフィルダー
元ガンバ大阪
現在 デュッセルドルフ(ドイツ)在籍
2014年2月に練習中に腓骨筋腱脱臼を受傷。
森重正人
元日本代表 ディフェンダー
現在 FC東京在籍
2017年7月に試合中に腓骨筋腱脱臼を受傷。手術を行い復帰。
金子大毅
現在 湘南ベルマーレ在籍のミッドフィルダー
2019年3月に練習中に腓骨筋腱脱臼を受傷。手術を行いました。
腓骨筋腱脱臼の診断
腓骨筋腱脱臼は整形外科にて診断を受ける事が出来ます。
脱臼した腱が外くるぶしに乗り上げていれば腓骨筋腱脱臼です。
足首のネンザにとても似ているので、見逃される事もあるので確実な診断のためにはMRIや超音波検査がおこなわれます。
出典:千葉大学大学院 医学研究院
足首の捻挫と非常に似ているため、気づかないとそのまま放置してしまうケースもあります。
筋支帯が損傷してしまっている場合、自然治癒では治らないため腓骨筋腱脱臼が疑われる場合は必ず受診する事をオススメします。
腓骨筋腱脱臼の治療方法
腓骨筋腱脱臼は放置しておいても治りません。
治療方法は保存療法と手術療法の二つに分けられます。
保存療法
腓骨筋腱脱臼になった直後や筋支帯損傷が軽度の場合では保存療法で治療します。
保存療法ではギプスでの固定を4〜6週間行います。
ギプスを巻いている時は、松葉杖を使用して完全に体重をかけないようにします。
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保存療法では12~15ヶ月程度でスポーツ復帰となります。
手術
手術をする場合は
- 腓骨筋腱脱臼をおこして時間が経ってしまっている場合
- 何度も繰り返す場合
- 筋支帯の損傷が強い場合
- 競技への早期復帰を望む場合
です。
手術は腓骨筋腱が脱臼して外れてしまうスペース(仮性嚢)を塞いでしまう方法が行われます。
Das de法といいます。
切れてしまった支帯を骨に縫合する方法が一般的です。
手術の後、2〜3週間のギプス固定、12週間程度で競技復帰となります。
腓骨筋腱脱臼はサポーターやテーピングで改善しません
足首の捻挫では、サポーターやテーピングが良く知られていて使用する人も多いかと思います。
しかし、腓骨筋腱脱臼はテーピングやサポーターでは症状を抑えるには難しいです。
むしろ筋支帯を傷つけてしまい悪化してしまう可能性もあります。
サポーターやテーピングは、主に足首のつま先が下に向く動き(底屈)、足首が内側にひねる動き(内反)を抑えます。
しかしそれでは腓骨筋腱脱臼は防げません。
そもそも、その動きでは腓骨筋腱脱臼は起きないのです。
整形外科を受診してちゃんと治療する事が大切です。
腓骨筋腱脱臼後のリハビリ
腓骨筋腱脱臼を受傷した後、保存療法、手術ともにリハビリが必要となります。
体重をどのくらいかけたら良いか、足首をどの程度まで曲げたら良いかなどは医師、理学療法士(PT)の指示の元に進めていく必要があります。
方法を間違えると再脱臼を起こしたり、他の箇所を痛めたりする事があるため注意が必要です。
大まかな流れと、主な自主トレーニング方法について解説していきます。
ギプス装着時のリハビリ
ギプスを装着している時もリハビリは必要となります。
患部に対してというよりは、患部外の機能が低下しないように予防リハビリを行っていきます。
アスリートの場合は上半身や反対側の足の筋力が落ちないように筋力トレーニングを行っていきます。
ギプスを外した後のリハビリ
ギプスを外した後は足首の可動域訓練や筋力トレーニングを無理のない範囲から始めていきます。
医師の指示の元、足への荷重量を調整していきながら徐々に松葉杖、片松葉、杖なしというように進めていきます。
過度な負荷をかけると、再脱臼のリスクもあるため細心の注意が必要となります。
主に足首の周りの可動域訓練、足首を支える筋力訓練、動作訓練などを行っていきます。
主に行われる自主トレーニング
①タオルギャザー
タオルを足で手繰り寄せる事で、足のインナーマッスルを強化します。
②セラバンドでのトレーニング
セラバンドを巻いて、小指側に引っ張り腓骨筋を鍛えます。
セラバンドを巻いて足を背屈させ前脛骨筋を鍛えます。
セラバンドを巻いて親指側に引っ張り、後脛骨筋を鍛えます。
④カーフレイズ
つま先立ちをして、ふくらはぎの筋肉を強化します。
⑤スポーツ動作訓練
スポーツ復帰に向けてランニングやダッシュ、ターン、バランス訓練などより実践的なメニューを行っていきます。
まとめ
・腓骨筋腱脱臼はサッカーやスキーなどに多い、比較的稀な怪我である。
・放置していても治る事は困難で、手術する事も多い。
・捻挫と間違えられやすいので、しっかりと診断を受ける事が大切