後十字靭帯損傷(PCL)の症状・治療・テーピング・後遺症・全知識
スポーツや事故などで起こる事の多い、膝の靭帯損傷。その中でも比較的頻度の少ない、後十字靭帯損傷について解説していきます。
後十字靭帯損傷とは
後十字靭帯損傷は膝にある靭帯の1つです。
スポーツや事故によって、膝に後方への外力が強くかかった際に後十字靭帯損傷は生じます。
受傷すると痛みによってスポーツの継続は困難となります。
後十字靭帯について
まず後十字靭帯について解説していきます。
一般に膝といわれている部分は、正式には脛骨大腿関節と呼び、太ももの骨である大腿骨とスネの骨である脛骨で構成されます。
大腿骨と脛骨を安定させるために膝には靭帯が存在しており、主要な靭帯は以下となります。
- 前十字靭帯
- 後十字靭帯
- 内側側副靱帯
- 外側側副靱帯
後十字靭帯は
①脛骨が後方にずれてしまうのを防ぐ
②内側に捻れてしまうのを防ぐ
という役割があり、膝を曲げるときには脛骨を内側に動くように誘導します。
そのため、後十字靭帯は、脛骨に後ろの方に外力が強くかかった時に損傷を受けやすくなります。
後十字靭帯は前十字靭帯と交差する事によって膝が前後ズレないように安定させる役割を担っています。
膝の怪我では前十字靭帯や側副靱帯の方が比較的多くみられます。
理由は後十字靭帯は前十字靭帯と比べて2倍の強度と、2倍の大きさを持っているからです。
後十字靭帯は、よほど強い力が加わらなければ損傷はしにくいのです。
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後十字靭帯損傷の原因
後十字靭帯損傷はスポーツや交通事故、転倒などで受傷する事が多いです。
- 転倒で地面に脛骨を強くぶつける
- 交通事故でダッシュボードにぶつける
- スポーツで人や地面に強く脛が衝突する
というのが原因で後十字靭帯損傷は起こります。
後十字靭帯損傷の症状
後十字靭帯を損傷すると以下の症状がみられます。
- 膝の痛み、熱感、腫れ、発赤
- 膝の不安定感
上記の症状により、歩いたり、走ったり、立ち上がったりする動作が難しくなってきます。
特に受傷して間もない時は、痛みや腫れが強く出現するため様々な動作に支障をきたします。
急性期を過ぎて、痛みや腫れが引くと不安定感が目立ってきます。
後十字靭帯損傷の診断
後十字靭帯損傷が疑われたら整形外科を受診しましょう。
レントゲン検査でははっきりと診断出来ないため、MRI検査が有効です。
また後十字靭帯損傷を調べるテストとして以下のものがあります。
これらのテストを行うには専門家の熟練した技術が必要です。むやみに行うと、損傷した靭帯を悪化させる恐れがあるので注意しましょう。
ザギング徴候
仰向けで膝を90°に曲げます。患側の脛骨に陥凹がみられ、後方に落ち込んでいる様子が確認されるたら陽性です。
グラビティーテスト
仰向けで、膝と股関節を90°曲げた位置にして足首を持ちます。
患側の脛骨が重力によって後方に落ち込んでいたら陽性となります。
後方引き出しテスト
仰向けで膝を90°曲げます。脛骨を把持して前後方向に動かして、健側と比べて後方への緩さがみられたら陽性です。
reversed jerk test
仰向けで寝て、一方の手で膝を持ち、膝を45°以上曲げた状態で、反対の手で脛骨を外に捻ります。さらに脛骨に外反力を加えながら伸展させます。
完全に膝が伸びる前に「カクン」という感じがしたら陽性です。
後十字靭帯損傷の治療
後十字靭帯損傷を受傷した際の治療法として、大きく保存療法と手術療法の2つが選択されます。
後十字靭帯の特徴として、後十字靭帯の場合は血行が良いため組織の治癒が期待出来ます。
完全断裂をしていなければ、ほとんどの場合は手術ではなく、保存療法が選択されます。
受傷してすぐに行うこと
受傷してすぐの時は、膝の腫れや痛み、熱感が強いため応急処置としてRICE処置をする必要があります。
RICE処置とは
Rest(安静): 患部を極力動かさない。
Ice(冷却): 患部を冷やして血管を収縮させて腫れや熱感を最小限に留める
Compression(圧迫): 患部を適度に圧迫して腫れ、炎症を抑える
アイシングの方法として、氷やコールドスプレーを使用して冷やす人がいますが、これは冷やしすぎで、かえってケガの回復を遅らせてしまいます。
正しい方法は、氷と水をビニール袋などに入れて冷やします。
氷だけはダメです。かならず水も一緒に入れて、氷が溶けていく温度の水で冷やしましょう。
Elevation(挙上): 心臓よりも高い位置に患部を置き腫れ、炎症を抑える
受傷後のRICE処置を行うかでその後の回復が大きく変わってきます。まずは腫れや炎症を最小限に抑えることが大切で、そのためのRICE処置となります。
注意!
特に痛めてすぐの急性期は患部を温めたり、マッサージをしたりすると腫れが悪化するため厳禁です。
保存療法
保存療法は手術などの外科処置を行わない治療方法です。
基本的には再度、後十字靭帯にストレスがかからないようにギプスや装具などで固定してリハビリをしながら治癒を待ちます。
関節内に血腫(血の塊)などがある場合は、注射などで吸引を行います。
始めの頃は松葉杖で免荷して足に負担をかけないようにします。
電気や温熱などの物理療法を行う事で、患部の治癒を促進する事も有効です。
物理療法とは温熱や電機などの物理的な力を使って体の回復を促進する治療法です。
主に整形外科や接骨院などに置かれている電気治療器などで治療します。
後十字靭帯損傷にて行われる主な物理療法は以下のものがあります。
温熱療法
ホットパックやマイクロ波、超音波などで患部を温めます。
温める事で血流を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを緩和する効果が期待出来ます。
電気療法
低周波や干渉波などの電気刺激によって治療する方法です。
患部に電気を流す事によって、痛みを伝える神経の興奮の抑制や筋肉のリラクゼーション効果が期待出来ます。
手術療法
後十字靭帯損傷の手術では後十字靭帯再建術という方法が行われます。
自分の腱を他の部位から採取して、それを膝に移植する方法です。手術は関節鏡を使用して、小さな傷で済みます。
主に太ももの裏にある半腱様筋腱や、膝のお皿の下の膝蓋腱が使用される事が多いです。
後十字靭帯損傷のリハビリ
後十字靭帯損傷のリハビリを紹介します。
リハビリは医師の指示の元、理学療法士と一緒に行っていきます。
後十字靭帯損傷後のリハビリでは主に関節の可動域を拡大する「関節可動域訓練」と、膝周りの筋力を強化する「筋力増強訓練」を中心に行います。
関節可動域訓練
後十字靭帯損傷では脛骨が後方に変位しやすいため、関節可動域訓練の際にそれを注意しながら行わなければなりません。
セルフトレーニングで膝を曲げる運動をする際には、膝の裏にバスタオルなどを入れる事で脛骨の後方への落ち込みを予防する事が可能です。
筋力増強訓練
後十字靭帯損傷後は太ももの前にある大腿四頭筋を強化する事が大切です。
大腿四頭筋は脛骨が後方に変位するのを防止する役割があります。
大腿四頭筋訓練
リハビリの経過
●1〜2週間で部分的に体重をかける練習荷重や軽めのスクワット運動を開始します。
●4週間で全体重をかける荷重訓練をします。
●12週間でジョギングを開始します。
後十字靭帯損傷の後遺症
後十字靭帯は比較的血行が良好なので、治癒しやすく後遺症が少なく、予後が良好な事が多いです。
正座も可能となる事が多いです。
損傷度によっては、膝のグラつきや不安定感が後遺症として残る場合があります。
後十字靭帯損傷に効果的なサポーターを使いましょう。
後十字靭帯損傷に効果的なテーピング
脛骨の後方へのズレを予防するテーピングです.
テーピングはハード伸縮性のものを使用します。
※写真はタイツの上から貼っていますが実際は皮膚に直接貼ります。
①アンカーを膝の上と下に巻きます。
②膝の後ろに一本縦に貼ります。
③後面をクロスするようにスパイラル(らせん状)を巻きます。
④①のアンカーを再度巻いて、全体をバンテージまたはソフト伸縮性テープで巻いて完成です。
まとめ
・後十字靭帯損傷は事故やスポーツでの衝突で生じやすく、膝の後方への不安定性が生じる。
・後十字靭帯は血流が豊富で、予後が良好なため、治療は保存療法がほとんどであるが、完全断裂の場合や不安定性が強い場合は手術が必要である。