肩の脱臼を全治させるまでの治し方・手術・リハビリ・全知識
コンタクトスポーツなどでの衝突や転倒した際に手をついた時に肩が外れてしまうケガ。それが脱臼です。
今回は肩の脱臼の再発予防のリハビリについて解説していきます。
脱臼とは
脱臼とは肩の関節に過剰な力が加わり、正常な位置から逸脱している状態です。その程度によって脱臼と亜脱臼とに分類されます。
脱臼と亜脱臼
脱臼
脱臼は腕の骨が本来収まるべき関節から完全に外れてしまっている状態です。
亜脱臼
亜脱臼は不完全脱臼ともいわれ、腕の骨が完全に外れてはいないものの、本来あるべき位置からずれてしまっている状態です。亜脱臼の場合には自分自身で元の位置へ戻せてしまうケースもあります。
脱臼の種類
肩の脱臼には脱臼する方向によって幾つかの種類に分けられます。
出典:https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/orthopedics/section_3_04_01/
●前方脱臼
●後方脱臼
●上方脱臼
●下方脱臼
この中でも前方脱臼の比率が圧倒的に高く、肩の脱臼の9割は前方脱臼です。
脱臼の症状
脱臼をした際は急激に発生する痛み、腫れ、変形、肩の動きが自由に出来なくなります。
強い痛みのためスポーツの継続は困難となります。
脱臼を起こしやすいスポーツ
サッカー、ラグビー、柔道などのボディコンタクトの多いスポーツで発症しやすいです。
また転倒によって手をついた時にも発生しやすいためスキーやスノーボードなどでも多くみられます。
●サッカー
●ラグビー
●アメリカンフットボール
●柔道
●スキー
●スノーボード
●体操
●野球
肩の特徴と構造から「脱臼」を知ろう
肩は全関節の中でも最も自由に動く関節です。しかしその動きやすさと引きかえに『最も外れやすい、安定性に欠ける関節』です。
全関節脱臼の5~8割が肩の脱臼で、その肩の脱臼の中でも9割は前方への脱臼です。
一般に肩と呼ばれる部位は、図のように上腕骨と肩甲骨からなる肩甲上腕関節という関節からなりたっています。
肩甲上腕関節の特徴は上腕骨に対して肩甲骨の受け皿の部分が浅いという事が挙げられます。最大のメリットは自由度が高いという事で前後左右に自由に動かせるという事です。
股の関節と比べて肩は『ハマリが浅い』
股関節は脚の大腿骨と骨盤からなりたっている関節です。肩関節と比べてみると骨盤の受け皿が深く、肩関節と比べると深くハマっているのが明らかにわかるかと思います。
肩は関節のハマりが浅いため、比較的自由に動きますが、その分安定性に欠けるという欠点があります。
ですから肩は他の関節に比べて圧倒的に脱臼する事の多いのです。
肩を守る組織たち
その肩の不安定性を補うために以下に挙げる組織が存在します。
関節包
出典:http://kishinoseikotsu-jsa.com/sp_8
関節を包んでいる膜の事で、2層構造となっており、外側は線維性膜と呼ばれる硬い組織、内側は滑膜と呼ばれる膜で出来ており、滑膜は関節の滑りを良くする滑液を出しています。いわば「関節の潤滑油」です。
関節唇
関節唇とは受け皿の肩甲骨側にある組織で関節を安定させる働きをしている硬めの軟骨のような組織です。
ゴルフのピンの上にゴルフボールが乗っている状態をイメージして下さい。ボールが上腕骨、ピンが肩甲骨です。
これだけではボールは簡単に落ちてしまいますが、ピンの受け皿を軟骨組織によって深みを与えると安定するような感じです。
関節上腕靭帯
出典:http://kotoseikeigeka.life.coocan.jp/14katakansetudakkyu.html
さらに上腕骨と肩甲骨を関節上腕靭帯と呼ばれる靭帯が補強する事でさらに安定性を高めています。
先ほどのゴルフボールとピンのイメージで、ガムテープによってボールとピンを止めるとさらに安定しますよね?
ガムテープが靭帯とイメージするとわかりやすいと思います。
回旋筋腱板(インナーマッスル)
肩にはインナーマッスルと呼ばれる筋肉があります。
肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋と呼ばれる筋肉で上腕骨を肩甲骨に近づけて安定させる作用があります。
脱臼は外力によってこれらの肩を安定させるための組織が損傷を受けます。それによって肩が正常な位置を保てなくなり脱臼を起こすのです。
その際に関節唇や靭帯の損傷の度合によっては脱臼を繰り返してしまう事もあり、手術しないといけない場合もあります。
肩の脱臼の種類
Bankart(バンカート)損傷
出典:http://www.shimogamo.jp/clinic/shoulder_disease03.html
脱臼をした際に、肩甲骨の関節窩(受け皿の部分)にある関節唇が骨から剥離してしまい損傷を受けるものをBankart(バンカート)損傷といいます。この関節唇は自己修復機能に乏しいため、損傷を受けると手術でないと治りません。
肩甲骨の関節窩の骨折を伴う場合もあります。これを骨性バンカート病変と呼びます。
Hill-Sachl(ヒルサックス)病変
出典:http://遠隔画像診断.jp/archives/11825
脱臼をした際に、上腕骨頭部分の骨折を伴うものをHill-Sachl(ヒルサックス)病変といいます。
脱臼の際に上腕骨と肩甲骨の関節窩が衝突し、圧迫を受ける事で上腕骨の後方が骨折を起こしてしまう事で発症します。
このBankart(バンカート)損傷とHill-Sachl(ヒルサックス)病変は同時に起きるも多く、2回目以降の脱臼の主な原因となります。
これが悪循環となり脱臼を何度も繰り返す反復性肩関節脱臼と呼ばれるケガになりやすいです。
肩脱臼の治し方
脱臼をしたときは骨折や靭帯、血管、神経の損傷などが生じている場合もあるため必ず病院を受診して診断を受けましょう。
靭帯や関節包、関節唇の損傷はMRIやCT検査にて調べる事ができます。
保存療法
基本的に初回脱臼時には保存療法が選択されます。
●脱臼をした肩を元の位置に整復をします。
●デゾー固定と呼ばれる三角巾などを用いた固定をして3~4週間安静にします。
初めて脱臼した時に十分な固定をする事と適切なリハビリを行う事によって再脱臼を防ぐ事が大切です。
しかし初めて脱臼でも骨折や靭帯、血管、神経などの損傷がある場合は保存療法ではなく、手術療法が選択される場合があります。
手術療法
何度も脱臼を繰り返している場合は手術を行うケースが多いです。手術の方法を紹介します。
●一般的に多く行われているのが、Bankart(バンカート)損傷を修復する手術です。
●内視鏡を用いて、骨から剥がれてしまった関節唇を再び肩甲骨の関節窩に縫い合わせます。
●手術は全身麻酔をして2時間前後の時間で行われます。
●手術後は約1ヶ月程度に三角巾やスリングで固定します。
●おおよそ2ヶ月で日常生活に支障がなくなるくらいに回復するケースが多いです。
●スポーツ競技にもよりますが、肩を使うスポーツでも6ヶ月程度で競技復帰が可能といわれています。
肩の再脱臼予防のためのリハビリ
一度、脱臼をしてしまい、関節包や関節唇が損傷を受けているとまた何度も外れてしまう事が多いです。
関節唇が損傷を受けた状態で何度も脱臼を繰り返すようであれば手術でしか完全に改善させる方法はありません。
しかし肩についているインナーマッスルを鍛えたり、肩甲骨の可動性を良くする事で再脱臼のリスクを少し軽減させる事は可能です。
インナーマッスルのトレーニングと肩甲骨のトレーニングを解説していきます。
インナーマッスルのトレーニング
肩のインナーマッスルは大きな運動や強い力は発揮しませんが、上腕骨(腕の骨)を肩甲骨に近づけて安定させたり、骨の位置を微調整する役割があります。
インナーマッスルには棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉が存在します。
インナーマッスルは軽めの負荷で鍛える
重たい負荷ではアウターマッスルを過剰に使ってしまうためトレーニングの際は、ゴムチューブや2kg程度のダンベルとかが望ましいでしょう。
それではインナーマッスルの筋力トレーニング方法を説明していきます。
棘上筋筋トレ
用意するもの:セラバンド
写真のようにセラバンドを使用し、腕を30°程度横に挙げます。
体が横に倒れたり、手首や指に力が入りすぎると棘上筋がしっかりと働きません。
肩甲下筋・筋トレ
セラバンドを手すりなどに固定し、肘を90°に曲げて脇をしめます。
脇が開かないよう、手をお腹に近づけるように内側にひねります。
体がひねらないように、手首や指に力が入りすぎないようにするのがポイントです。
棘下筋筋トレ
セラバンドを手すりなどに固定し、肘を90°に曲げて脇をしめます。
脇が開かないよう、手をお腹に近づけるように外側にひねります。
体がひねらないように、手首や指に力が入りすぎないようにするのがポイントです
肩甲骨トレーニング
肩甲骨の動きが悪くなると、上腕骨の過剰な動きが必要とされるため脱臼のリスクが高まります。肩甲骨の安定性と可動性を改善するためのトレーニングです。
四つ這いの姿勢になり、肘を伸ばして手で床を押しながら体を前後左右に動かしていきます。
生活の注意点
肩の脱臼はほとんどが前方脱臼ですが、腕を後ろに持っていく動作で外れやすくなります。特にシートベルトに手を伸ばすような腕を後ろに挙げてひねる動作が脱臼のリスクが高いため注意が必要です。
なるべく腕だけで動くのではなく体をねじったり、肩甲骨を一緒に動かすことで脱臼のリスクをおさえましょう。
まとめ
●肩の脱臼は再発率が高く、関節の組織が損傷されるとより再脱臼しやすい
●何度も脱臼を繰り返す場合は手術が必要である
●後方に腕を持っていく動作は脱臼のリスクが高いため要注意
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