野球肘の痛み!症状・治し方とストレッチを教えます
野球でピッチャーをしている人にありがちなのが野球肘
野球生命の存続の危機にもつながりかねないケガです。
今回は野球肘の原因・治療法・予防について解説していきます。
つらい野球肘の痛みを治療しストレッチで予防しよう
野球肘は小学生から中学生のジュニア期に多く発症するスポーツ障害です。
その名の通り野球をやっている人、特にピッチャーに多く発症します。
痛みを我慢してプレーを続けていると悪化してしまい、選手生命に大きな影響を与える事にもなりかねません。
野球肘の原因
野球肘とは投球の動作を繰りかえすことで起こる肘の障害です。
つまり「投げすぎ」が大きな原因です。
野球肘の症状
- 投球の時の肘の痛み
- 肘が曲げにくくなる
- 肘が伸ばしにくなる
- 薬指~小指にかけてのシビレ
という症状があります。
投球フォームをチェック
まずは野球でのピッチングフォームをおさらいしましょう。
投球フォームとは
①ワインドアップ・・・振りかぶる
②コッキング期・・・手が離れる~足を下ろす~腕を後ろに引いた状態まで
③アクセレレーション期・・・ボールを後ろに引いてからボールが手から離すまで
④フォロースルー・・・ボールが手から離れた後に腕を振り切る
以上のようにワインドアップ~最後のフォロースルーまで4つの動作で投球します。
このコッキング期に野球肘の危険性があるんです!
野球肘は子どもと大人で2種類ある
●成長期型野球肘(子ども)
小中学生の骨は軟骨成分が多く、成人と比べ柔らかい組織でできています。
そのため投球の時に軟骨の組織や骨端線(身長が伸びるのに関係している部分)が靭帯や筋に引っ張られて剥がれたりし、損傷が起こります。
このように子どもの弱い軟骨の組織をケガをしてしまうことを成長期型野球肘といいます。
●成人型野球肘(大人)
このように子どもの肘の弱い軟骨の組織に起こるのを成人型野球肘といいます。
野球肘は部位別にも3種類ある
野球肘は「部位」ごとに違いがあります。
肘の内側が痛む『内側型』
コッキング期からアクセレレーション期にかけて肘の内側に引っ張られるストレスが繰り返しかかる事で痛みが生じます。
初期の場合は靭帯や筋に小さな損傷起こる程度ですが、悪化すると剥離骨折を起こす場合もあります。
- 成長期の場合は上腕骨の内側の軟骨や骨端線が剥離しやすいです。
- 成人型では内側側副靭帯の損傷が多いです。
内側型が一番多いですが、重症になる前に安静にする事で治りやすいです。
肘を内側から見た図です。
- 前斜走線維
- 横走線維
- 後斜走線維
があります。
野球肘で痛めやすいのは前斜走線維です。
肘の外側が痛む『外側型』
コッキング期からアクセレレーション期に上腕骨と橈骨がぶつかるストレスによって発症します。
初期の段階では軟骨の小さな損傷ですが、悪化すると、骨が壊死したり、骨が剥がれて遊離してしまう「関節ネズミ」といわれる障害となってしまいます。
成長期では上腕骨小頭の損傷が生じやすく、悪化して骨が壊死したり、剥離してしまうと変形や可動域が小さくなってしまい、将来的な障害をきたす事もあるので注意が必要です。
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外側型は「内側型」と比べると少ないですが重症化すると治りにくいです。
手術が必要となったり、治療に長期間かかるケースがあります。
肘を外側から見た図です。上腕骨小頭と橈骨頭の部分が障害を起こしやすいです。
肘の裏側が痛む『裏側型』
ボールを投げてからフォロースルー期に腕を伸ばす事で、上腕三頭筋の過剰な収縮により、上腕骨と尺骨の衝突がストレスとなり痛みが出ます。
成長期の場合は尺骨の肘頭骨端線離開を生じやすく、成人型では、肘頭疲労骨折や肘の変形性関節症を生じる事があります。
野球肘のセルフチェック
肘に異常が起こっていないか日ごろからチェックすることもケガを悪化させないために必要なことです。
そこで、自分でできる簡単な自己チェック法を紹介します。
チェック1
肘を曲げた状態から伸ばした時に痛みが起こると要注意です。
チェック2
肘を伸ばした状態で肘の内側にある骨の出っ張りより数㎝手に近い部分を軽く押してみます。
痛みや違和感があれば要注意です。
チェック3
肘を曲げると、フタコブらくだのような骨の出っ張りができます。
2つある出っ張り山のうち、外側の方の山を軽く押してみます。痛みがあれば要注意です。
野球肘の治し方とストレッチ・野球肘にならない投球フォーム
野球肘の原因とケガをする部位については理解して頂いたと思います。
ここからは、野球肘になってしまった場合の治療法と野球肘にならないようにする方法を教えます。
野球肘の治療法
野球肘になってしまった場合はピッチングを禁止し、肘へのストレスをかけない事が大切です。
初期の段階で、骨への病変が重度でなければ、安静にする事で改善します。
しかし、靭帯の損傷や骨の病変が重度となる場合は長期に渡って投球動作が出来なくなってしまったり、手術が必要となる場合があります。
整形外科にてレントゲンやMRIでの検査で医師の診断をしっかりと受ける事が大切です。
●とにかくピッチング禁止(監督さん!選手をよく観察して下さい。)
●早めにレントゲン・MRIで靭帯・骨に異常がないかチェックしましょう
●悪いようなら手術も必要になります。
野球肘にならない為の予防法
投げすぎを禁止して過剰負荷(オーバーユース)を避ける事です。
肘に痛みがあったり、違和感がある場合は無理をせずに休むことが大切です。
特にピッチャーは一日の投球数があまり過多にならない事が大切で、チームに複数のピッチャーを配置したり、投球数に制限を設ける事が必要であるといえます。
最近では野球肘を予防するために中学生ピッチャーの投球制限に関する統一ガイドラインが制定されています。
中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン
1.試合での登板は1日7イニング以内とし、連続する2日間で10イニング以内とする。
2.練習の中での全力投球は1日70球以内、週350球以内とする。
また週に1日以上、全力による投球練習をしない日を設けること。
※出典 http://www.littlesenior.jp/news/48.html
肘にストレスをかけない投球フォームを
よく肘が下がっていると良くないといわれますが、コッキング期に肘の高さが低くなると関節運動学的に強いストレスが肘にかかってしまいます。投球フォームの改善も野球肘の予防に大切な要素です。
しかし投球フォームの改善といっても何が理想的なのかはなかなかわかりにくいかと思います。ここからは理学療法士の目線から、解剖運動学的に望ましい身体を解説していきます。
野球肘になりにくいのは肩の高さをゼロポジションにする事
コッキング期に肘が下がっていると肘へのストレスを強めてしまいますが、肘を変に高くする事だけを意識してしまうと、肩に負担がかかってしまったりしてさらに痛めてしまう場合があります。
理想的な肘の高さは肩がゼロポジションといわれる位置に持っていく事です。
ゼロポジションとは?
肩甲骨には肩甲棘と呼ばれる部位があります。
この肩甲棘と上腕骨が一直線になる位置をゼロポジションと呼びます。
なぜゼロポジションが良いのか?
コッキング期のように、腕を後方に捻る動作を肩関節の外旋と呼びます。
ゼロポジションでは、肩を支えている回旋筋腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)と呼ばれる4つのインナーマッスルのバランスが最も良く活動できる状態となり、肩の外旋がスムーズに動き、安定した肩の動きを導く事ができます。
ゼロポジションから外れた位置での外旋動作では、インナーマッスルのバランスが崩れ肩への負担を強めてしまい、その代償として肘へのストレスも強めてしまいます。
つまり肩の働きが効率よくなる事で肘へのストレスが軽減されるのです。
ゼロポジションで投げれる様になる条件 3つ
①肩甲骨の上方回旋、内転をスムーズに動かそう
ゼロポジションに肩の高さを持っていくためには上腕骨の動きはもちろんですが、肩甲骨もその動きに連動する必要があります。
特に一番ストレスのかかるコッキング期からアクセレレーション期では肩甲骨が斜め上に持ち上がる上方回旋という動きと、肩甲骨が背骨に近づく内転という動きが重要となります。
この動画で内転・上方回旋という動きをチェックしてみましょう。
上方回旋、内転をスムーズに動かす事が理想の投球フォーム・ゼロポジションで投げることが出来る第一歩です。
②僧帽筋の筋力がしっかりと働いている事
肩甲骨を上方回旋、内転に動かすようにするには僧帽筋という筋肉を強くしましょう。
僧帽筋とは背骨から肩甲骨を繋いでいる筋肉で、上部、中部、下部とに分けられます。
3つの部分がバランスよく働く事で肩甲骨の動きがスムーズ動くのですが、中部・下部は弱化する事が多く上方回旋、内転の動きを阻害してしまいます。
③広背筋の柔軟性が十分にある事
肩甲骨を上方回旋に動かすようにするには広背筋の柔軟性を養いましょう。
広背筋という肩甲骨の下を通って骨盤まで付着している筋が硬くなると肩甲骨を下に引っ張る力となり肩甲骨を下げてしまい、上方回旋の動きを阻害してしまいます。
●肩甲骨の上方回旋と内転の動き
●僧帽筋の筋肉がしっかりと働く事
●広背筋が硬くなっていない事
野球肘になりやすい選手の特徴
以下に当てはまる人は野球肘になりやすいです。
●肩甲骨の高さが低くなっている人
●背骨と肩甲骨との距離が離れている人
●肩の可動域が小さい人
●身体をちょっとしか捻れない人
●肘と手首の可動域が小さい人
野球肘を予防するにはストレッチ・筋トレを
野球肘になりやすい人に、予防のための簡単な自主トレを紹介します。
広背筋のストレッチ
効果:肩甲骨の高さの改善・肩の可動域改善・体の回旋可動域の改善
図のように小指と肘をくっつけて四つん這いになり、お尻と踵を近づけるように屈むと広背筋をストレッチできます。最低でも30秒はこの姿勢を保つことでしっかりとストレッチ出来ます。
僧帽筋筋力トレーニング
効果:肩甲骨の位置の改善
図のようにバンザイ(ゼロポジションが望ましい)をして壁に手の甲をつけた位置から、壁から手を離して肩甲骨を内側に寄せていきます。顎を引いてお腹を凹ませることがポイントです。
野球肘におすすすめのサポーター
ベースボールサポーター・スローイングサポーターと呼ばれる野球肘専用のものは内側側副靱帯のストレスを軽減させてくれるので理にかなっています。
肘の内側が過剰に伸張されないようにサポートしているものが望ましいでしょう。
野球をしていてケガでお悩みの方・予防したい人はこちらもチェックしてみてくてください。
まとめ
●野球肘には発症年齢による成長期型と成人型、部位による内側型、外側型、後方型がある
●原因は投げ過ぎと投球フォーム不良
●ストレスをかけないためにはゼロポジションに肩の高さを持っていく事が重要
●肩甲骨の機能を高める事が野球肘の予防となる
そして何よりも大切なのは整形外科にて骨や靭帯の状態をしっかりと診断してもらう事、トレーナーや理学療法士に身体の特徴を評価してもらい改善のためのトレーニングの指導を受ける事が重要です。
豊田早苗(医師)●文
桜井佑葵(理学療法士)●文
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