筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因・症状・診察・治療・全知識
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは脳や神経からの指令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)が侵される病気で、指定難病の一つとされています。
日本では約1万人の患者がいるとされており、50〜70歳に多く見られます。まだ原因や根本治療が解明されていない病気です。
指定難病とは?
難病は病気になる原因がはっきりと分かっておらず、明確な治療法が確立されていないため長期の療養を必要とする病気をいいます。
医療費の負担額が助成されます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)のメカニズム
人間は手足を動かしたり、運動をする際に、脳から指令が出て脊髄神経を伝わって筋肉に指令が届くことで動かすことができます。
その運動を伝える神経を運動ニューロンとはいい、脳から脊髄までを上位運動ニューロン、脊髄から抹消部分を下位運動ニューロンといいます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこの、上位運動ニューロンと下位運動ニューロン両方とも侵されてしまい、筋肉を動かそうとする信号が伝わらなくなってしまうのです。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状主に以下のものがあります。
筋萎縮
筋肉が痩せてしまい、細くなっていきます。
特に手の先の方の筋肉で著名にみられる傾向があります。
手足の筋力低下
手足の筋力低下が見られます。
手の筋力低下によってペットボトルを開ける細かい動作や着替える時に腕を挙げるといった日常生活動作に支障をきたします。
また足の筋力低下では自力で立つことや歩くことが困難になります。
構音障害・嚥下障害
話をしたり、飲み込んだりする動きで働く筋力が低下する事によって構音障害(口腔内の動きに障害があり発語に支障がある状態)や嚥下障害が見られます。
嚥下障害が進行する事で誤嚥性肺炎を引き起こす事もあります。
呼吸困難
呼吸をする筋肉の低下が見られ、大声を出す事が困難になったり、息切れが見られます。
また進行すると人工呼吸器が必要になります。
認知症
認知症を合併することもあります。特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)でみられるのは、性格の変化や発話の減少、意欲の低下などです。一般的な認知症でよくみられる重度の記憶の低下はあまりみられません。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では見られない症状
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では以下の症状は見られず、
陰性初見として以下の4つがあげられます。
眼球運動障害
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では目を動かす筋肉は障害されず、進行して発生が困難になっても眼球運動によって自分の意思を伝えることが可能となります。
感覚障害
運動ニューロンが侵されるので、感覚神経はは正常のままです。視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚には影響がありません。
直腸膀胱障害
排尿や排便機能にも影響が見られません。尿意や便意の感覚も正常です。
褥瘡
褥瘡も生じにくいのも特徴です。これは感覚が正常であるため、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人の皮膚のコラーゲンに変化が起こるためとの説があります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因はいまだ解明されていません。
いくつか有力といわれている説はありますが、原因は医学的にもまだわからない事が多いのが現状です。
グルタミン酸過剰説
脳からの指令が神経を伝わって伝導していきますが、神経と神経の伝導のつなぎ部分をシナプスといいます。
このシナプスを介して指令が電気信号のように伝わっていくのですが、その際に神経伝達物質という化学的な物質が放出されます。
その神経伝達物質の中にグルタミン酸という興奮性のアミノ酸があります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人は、このグルタミン酸を取り込む能力が障害される事がわかっています。
神経細胞外のグルタミン酸が過剰になると神経細胞が死滅してしまうため、それが原因ではないかとの説があります。
家族性・遺伝性説
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は全体のおよそ5%が家族内で発症することが分かっています。
家族性、遺伝性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)ではスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)という酵素やFUS遺伝子に異常が見つかっています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の重症度分類
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は重症度によって以下のように分類されています。
●重症度1度:家事・就労はおおむね可能
●重症度2度:家事・就労は困難だが、日常生活(身の回りのこと)はおおむね自立
●重症度3度:自力で家事、排泄、移動のいずれか1つ以上ができず、日常生活に介助を要する
●重症度4度:呼吸困難、痰の喀出困難あるいは嚥下障害がある
●重症度5度:気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養等)、人工呼吸器使用
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は神経内科を受診して診断されます。
血液検査、脊髄・脳のMRI、髄液検査などを行い、筋萎縮性側索硬化症と似た病気を除外します。
針筋電図検査や末梢神経電動検査などでは下位運動ニューロン異常の所見がとれたり、腱反射では上位運動ニューロン異常の所見がとれます。
これらの検査を組み合わせて、出現している症状、陰性症状などから統合的に筋萎縮性側索硬化症(ALS)は診断されます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の予後や進行度
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の予後や進行度は個人によって様々で差があるため、一概にこうとは言い切れません。
ただ、進行して呼吸筋が働かなくなり、人工呼吸器を使用しない場合は生命の危機が早期に訪れます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療方法
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、現代の医学でも原因がわかっていない事が多く、根本治療は困難です。
そのため進行を遅らせる事を目的に治療を行っていきます。
そのために主に使用される治療薬はリルゾールとエダラボンです。
リルゾール
飲み薬で、神経伝達物質(グルタミン酸)による過剰な興奮を抑え神経細胞を保護する役割があります。
主な副作用として肝機能障害や食欲不振があります。
エダラボン
点滴薬で、神経細胞を酸化ストレスから保護する役割があります。
10日間点滴したら2週間休むというサイクルを繰り返して使用します。
主な副作用として肝機能障害や発疹、かゆみなどが挙げられます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリ
筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリは進行を遅らせるための筋力訓練や呼吸訓練を行います。
状態によって行う内容も異なってくるため、病院や施設にて理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)による専門的なリハビリを行っていきます。
また筋力低下によって様々な動作が困難になってくるため、安全な動作方法の指導や、家族への介助指導なども行っていきます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)のケア
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性疾患であり、治療やリハビリだけでなく、日常生活のケアを行う事が重要です。
コミュニケーション
構音障害が進むと発話が困難になり会話ができなくなります。
手足の機能が残存していれば筆記や文字盤などを使ってコミュニケーションをとります。
手足を動かす事も困難になった場合は、眼球運動を利用してコミュニケーションをとっていきます。
食事
嚥下障害が進行すると、飲み込む力が弱まり誤嚥性肺炎を起こすリスクが高まります。
最初のうちは飲み込みやすいように刻み食やペースト状にして経口摂取をします。
進行によって経口摂取が困難になってきたら鼻からや胃瘻による経管栄養にて摂取します。
呼吸
進行するに連れて呼吸する筋力も弱まってきます。
自発的な呼吸が困難になると延命目的で呼吸補助装置を使用する事があります。
呼吸補助には鼻にマスクをするだけの非侵襲的な人工呼吸器と、気管を切開する侵襲的な人工呼吸器とがあります。
これらの措置は延命治療となるため本人や家族の決断が必要となります。
まとめ
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが侵される難病で、筋力低下をもたらし基本動作、呼吸、コミュニケーションなど様々な生活動作に支障をもたらす。
・現在も根本治療法は解明されておらず、進行を遅らせる事しかできないのが現状である。
・進行する病態に対してのケアがQOL(生活の質)の向上に重要である。