腋窩神経麻痺の症状・原因・治療・リハビリ全知識
肩の打撲や脱臼後、上腕骨の骨折後に生じやすい腋窩神経麻痺。
腋窩神経麻痺になると腕を挙げる動作が困難になり、日常生活に大きな支障をきたします。
今回は腋窩神経について治療とリハビリについて解説していきます。
腋窩神経麻痺とは
首の後ろを通る脊髄から分岐して、脇の下を通る腋窩神経が何らかの原因によって損傷を受けてしまいます。
そして腋窩神経が支配する筋肉に麻痺が生じたり、感覚が鈍くなったりする症状を腋窩神経麻痺といいます。
腋窩神経とは
●背骨の後ろには、脳から繋がっている脊髄という神経組織があります。
●その脊髄から、細い枝のように神経が分岐して体の各部位に繋がっています。
●脊髄から分岐して鎖骨や上腕、前腕、手へと繋がる神経が集まった部分を腕神経叢(わんしんけいそう)といいます。
●その腕神経叢から出る上腕に繋がる末梢神経を腋窩神経といいます。
●腋窩神経は肩にある三角筋と小円筋を支配しており、上腕の外側の皮膚感覚も支配しています。
●そのため腋窩神経麻痺が生じると三角筋と小円筋は力が入りにくくなったり、麻痺を生じたりします。
●また上腕の外側の感覚が鈍くなったり、触られても何も感じなくなったりします。
腋窩神経に支配されている筋肉
三角筋
三角筋とは上腕部の外側を覆う大きな筋肉で、腕を上に挙げるのに重要な役割を果たしています。
三角筋は前部線維、中部線維、後部線維に分けられます。
<起始(筋肉が骨に付着する部分)>
三角筋前部:鎖骨の外側1/3の前縁
三角筋中部:肩甲骨の肩峰
三角筋後部:肩甲骨の肩甲棘の下縁
<停止(筋肉が骨に付着する部分)>
上腕骨の三角筋粗面
<作用>
肩の屈曲、外転、伸展内旋、外旋、水平内転、水平外転
肩の動きのほとんどに作用します。
小円筋
小円筋は肩のインナーマッスルと呼ばれる筋肉の一つです。(肩にある棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋を回旋筋腱板、インナーマッスルといいます。)
<起始>肩甲骨後面の外側縁
<停止>上腕骨の大結節
<作用>肩の外旋
腋窩神経麻痺の症状
腋窩神経麻痺になると、三角筋と小円筋の筋力低下が起きたり、肩の外側の感覚が鈍くなったりします。
そのため、腕を上に挙げる事が困難になり、着替えや高い物を取るなどの生活動作に支障をきたします。
また腕から指先(特に親指と人差し指)にかけての痺れが起きる事もあります。
腋窩神経麻痺の原因
腋窩神経麻痺は何らかの原因で神経が圧迫をされたり、強く引っ張られたりする事によって症状が出現します。
主に腋窩神経麻痺が生じる原因としては以下なのものがあります。
転倒や衝突による肩の脱臼や骨折
スキーでの転倒やラグビーなどのコンタクトスポーツでの衝突による肩関節の脱臼によって腋窩神経麻痺が生じる事があります。
腋窩神経は肩関節の後方を通っているため、脱臼の際に傷つきやすいといわれています。
転倒や衝突などの外傷後に腕が挙がらなくなるケースは、肩の腱板断裂や脱臼によるものが多いですが、手の痺れや腕の外側に感覚異常がある場合は腋窩神経麻痺を合併している可能性があるため鑑別が必要です。
また上腕骨の外科頸の骨折に合併する事もあります。
松葉杖による圧迫
足を怪我した際に使用される松葉杖。
脇で体を支えてしまう人が多いです。実は脇で体を支えるのは間違った使い方なんです。
腋窩神経はその名の通り、脇の下を通っています。
そのため松葉杖を脇で支えてしまうと、強く圧迫を受けてしまい、腋窩神経麻痺を生じる事が多くなります。
※手首で体重を支えて、脇と松葉杖の間に隙間があるというのが正しい使い方です。
手術による圧迫
腕や肩の手術の際に、固定のために脇の下が長時間圧迫される事によって腋窩神経麻痺が生じる事もあります。
手術の後の後遺症として見逃される事もあります。
腋窩神経麻痺の診断・検査
腋窩神経麻痺が疑われた場合には、MRI検査や筋電図検査が行われます。
腋窩神経麻痺の治療
神経の回復が見込める場合は、保存療法にて自然回復を待ちます。
神経断裂や欠損がひどく、回復が見込めない場合には神経縫合術が行われます。
野球選手にも多い腋窩神経麻痺
野球のピッチャーのようにオーバーヘッド動作が多いスポーツにおいても腋窩神経麻痺は起こりやすいです。
投球動作において、肩を挙げた位置で捻る動きによって、筋肉が収縮を繰り返す際に腋窩神経が絞扼される事によって腋窩神経麻痺が生じます。
腋窩神経が圧迫されやすいポイント
脇の下、肩関節の後方には四辺形間隙と呼ばれる筋肉に囲まれたスペースがあり、腋窩神経がそこを走行するため圧迫を受けやすいポイントとなっています。
四辺形間隙はQLS(Quadri lateral space)と呼ばれ、小円筋、大円筋、上腕三頭筋によって形成されます。
QLSは腕が下がっている位置では神経を圧迫しないのですが、腕を上げた位置では間隙が狭くなり腋窩神経を圧迫します。
小円筋、大円筋、上腕三頭筋が硬くなったり、緊張が高くなったりすると投球動作の繰り返しにて腋窩神経麻痺を生じやすくなります。
このQLS部において、腋窩神経が絞扼される病態をQLSS(Quadri lateral space syndrome)といいます。
投球動作における腋窩神経の絞扼
投球動作では、コッキング期とフォロースルー期に腋窩神経にストレスがかかります。
野球の投球動作は以下に分類されます。
ワインドアップ期
投球動作開始からグローブを所持している非利き手よりボールが離れ、片足を上げてバランスを取るまでの時期です。
アーリーコッキング期
片足挙上位においてバランスを取っているところから、挙上している足が地面に着地するまでの時期です。
レイトコッキング期
地面に足が着地してから、肩の外旋(外側に捻る動き)が最大限に到達する時期です。
アクセレレーション期
肩の最大外旋位から、ボールが手から離れる直前までの時期です。
減速期
ボールが手から離れてから肩の内旋(内側に捻る動き)が最大可動域に達するまでの時期です。
フォロースルー期
肩の最大内旋から投球モーションの最後までの時期です。
コッキング期では大円筋、上腕三頭筋、小円筋がそれぞれQLS部を狭小化させる事によって、腋窩神経が絞扼されます。
フォロースルー期では、上腕三頭筋と小円筋が腋窩神経を圧迫し、さらに腋窩に牽引が加わる事によってQLSSが引き起こされます。
QLSSによる腋窩神経麻痺のリハビリ
QLSSの予防のためにはQLSを構成する小円筋、大円筋、上腕三頭筋の柔軟性を獲得する事が重要となります。
ストレッチ①
肘を曲げた状態で壁に腕を押し当てて、ストレッチしていきます。腕の後面から脇の下が伸びている事を感じながら30秒以上ストレッチします。主に上腕三頭筋がストレッチされます。
ストレッチ②
肘を曲げて反対に側屈するように引っ張り、腋から側腹部をストレッチしていきます。
腕から腋、側腹部が伸びている事を感じながら30秒以上ストレッチします。
腋窩神経滑走ストレッチ
首を患側と反対に傾けた状態で、反対の腕を触るように動かし、腋窩神経の滑走を促します。
患側に首を傾けて行うことで、より腋窩神経に伸張を加えます。
※しびれや痛みが出ない範囲で行いましょう。
まとめ
・腋窩神経麻痺はスポーツや事故での肩の怪我の合併症、松葉杖の圧迫、野球の投球障害などでみられる。
・症状は三角筋、小円筋の麻痺による肩の挙上障害、腕の知覚障害などが出現する。