多発性硬化症の原因・症状・治療・リハビリ・全知識

手足に力が入らなくなったり、痺れたり、視力が低下したり、様々な神経症状が生じる病態の一つに多発性硬化症と呼ばれる疾患があります。

今回は多発性硬化症について解説していきます。

多発性硬化症とは簡単に言うと

 

多発性硬化症は脳や脊髄、目の神経などの中枢神経が何らかの原因で障害され、様々な症状を引き起こす病気です。

欧米やオーストラリアなどで発症している人が多い傾向にありますが、日本でも10万人あたりに8-9人の有病率です。

比較的若い人にみられ、罹患は30歳までにピークを迎え、ほとんどが50歳までに発症します。

男女比は1:3の割合で女性に多いとされています。

 

多発性硬化症の症状

多発性硬化症では障害される神経の部位によって様々な症状が現れます。

運動麻痺

手足に力が入りにくくなったり、歩く時にふらついたりする症状がみられます。

 

動作が重く緩慢になったり、動作時に手足が震えたりする事もあります。

また口腔内の機能にも障害がみられ、呂律が回らなくなったり、飲み込みがしにくくなったりする事もあります。

感覚障害

感覚障害は、物の熱さや冷たさが感じにくくなったり、痛みや触られる感じが鈍くなったります。

 

逆に過敏になり、少しの刺激でも痛みを感じやすくなる事もあります。

レールミッテ徴候という、首を下に向けると背中から足まで強い痛みが生じる症状がみられる事もあります。

視覚障害

視界に霧がかかって見えにくい、物が二重に見えるといった症状や視力の低下、視野欠損などの症状がみられます。

排尿排便障害・性機能障害

急にトイレに行きたくなる、尿を我慢できない、失禁してしまうといった症状がみられます。

また性感覚障害、勃起不全といった性機能にも障害がみられます。

精神障害

記憶力や集中力の低下、思考速度の低下など精神機能の障害もみられます。
急に泣いたり、怒ったり、落ち込んだり、感情が不安定にもなります。

多発性硬化症の症状の現れ方

 

多発性硬化症の症状は、障害される神経の箇所によって様々であるため、決まった初期症状が出るわけではありません。

 

先ほど挙げた症状が単独で現れる事もあれば、合併して現れる事もあります。

 

比較的初期症状でみられるのは、運動麻痺、感覚異常、視力障害です。

多発性硬化症の原因

 

多発性硬化症は神経がどのように障害されているのかをみていきましょう。

出典:多発性硬化症jp

 

正常では脳から出た指令が神経細胞を介して体全体へ伝わっていきます。

 

わかりやすくいうと電気が電線を伝わって電球にたどり着くようなイメージで、主電源が脳、電線が神経、電球が筋肉といった感じです。

 

電線のように指令を伝える部分を「軸索」といい、軸索の周りを「ミエリン」というものが覆っています。

 

ミエリンは神経の伝達をスムーズにさせる役割を持っています。

 

多発性硬化症ではこのミエリンが何らかの原因で障害されてしまい、軸索がむき出しの状態となってしまいます。

 

このような状態になる事を「脱髄」といい、脱髄が生じる事で神経の伝達がスムーズにいかなくなる事が、多発性硬化症の症状の原因です。

 

なぜそのような事が生じてしまうのか、はっきりとした原因はわかっていませんが、自分の免疫が誤作動して神経を攻撃するのではないかといわれています。

多発性硬化症の診断・検査

 

多発性硬化症は神経内科にて検査が行われます。

まず問診にて身体状況を検査します。

 

運動麻痺や感覚障害の有無、視覚障害の有無などをチェックし、病歴を問診します。

精密検査はMRI検査か脳脊髄液検査の二つが有用となります。

MRI検査にて、脳や脊髄に脱髄している病巣が存在するかを確認します。

脳脊髄液検査では腰の部分から針を刺して髄液を採取する方法で、異常な数値の有無などで確認します。

 

多発性硬化症の経過や進行度は?

多発性硬化症は経過や症状の進行度から3つのタイプに分けられます。

再発寛解型

再発寛解型は多発性硬化症の多くの人にみられるタイプです。

 

急に症状が現れ一時は悪化しますが、しばらくすると落ち着いていきます。

 

安定して落ち着いているかと思いきや、また再発して症状が悪化するようになり、これが繰り返されるのが特徴です。

再発の頻度は人によって様々で、一年のうち数回起こる場合や数年に一回の場合もあります。

二次進行型

初めは再発寛解型のような症状が、繰り返し生じますが、徐々に症状の悪化が進行していきます。

再発寛解型のほとんどの人が、二次進行型に移行します。

 

一次進行型

最初から寛解する事がなく、徐々に症状が進行して悪化していきます。

多発性硬化症の約15%にこの一次進行型がみられます。

 

多発性硬化症の予後

多発性硬化症の予後ですが、進行具合が人によって異なるため予測する事は困難です。

急速に進行して車椅子生活を余儀なくされる場合もありますが、多くの人は必要とせずに生活をしています。

 

極めて重症な場合を除いて、多発性硬化症自体で寿命が短くなるような事もないといわれています。

多発性硬化症の治療方法

 

多発性硬化症を完治させる治療法は現段階では確立されていません。

 

主に症状を抑えたり、再発を予防したりする対症療法が行われています。
多発性硬化症の治療方法は主に薬物療法と血漿交換療法が行われます。

 

症状が悪化している時にはステロイド剤を投与する「ステロイドパルス療法」や、透析のように血液を体外に取り出して異物を取り除く「血漿交換療法」が行われます。

 

症状が落ち着いている寛解期では注射や点滴、飲み薬などを使用して症状が進行しないようにしていきます。

 

多発性硬化症と診断されたら早期から治療を行う事で進行を最小限にとどめられる可能性が高くなるため、早期発見、早期治療が重要となります。

以前までは再発した時に症状を軽減させる事を目標に治療が進められていました。

近年では寛解している時にも免疫を調整する薬物によって再発予防していく事が進められています。

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多発性硬化症における生活の注意点

多発性硬化症では普段の生活で以下の事に注意が必要です。

体温の上昇

多発性硬化症ではウートフ徴候という、体温の上昇にて神経症状が悪化し、体温の低下に伴って元に回復する徴候がみられます。
過度な運動や室温などの管理が大切です。

感染症

ウイルスなどに感染し、免疫が活発になると神経症状が再発しやすくなります。普段から手洗い、うがい、マスク着用などで感染症に気をつける事が大切です。

多発性硬化症のリハビリ

多発性硬化症と診断された場合、体の機能を維持していくためにはリハビリが必要となります。

 

リハビリは理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)と一緒に行っていきます。

 

多発性硬化症の場合、人によって症状は異なるため、個別に評価、検査して、その人に合った内容で行う事が重要です。

また多発性硬化症の時期によっても異なってきます。それぞれの時期におけるポイントについて説明します。

 

急性期

急性期は、神経脱髄が生じて間もなく、炎症を起こしている時期です。そのため基本は安静が優先となります。

リハビリとしては、体に無理のない範囲での関節可動域訓練、呼吸訓練などを中心に行います。

回復期

炎症が落ち着いて、回復に向かう時期です。麻痺や手足の震えなど、状態に合わせて機能訓練、動作訓練を行っていきます。

慢性期

多発性硬化症の症状が寛解に向かい、落ち着いている時期です。体力の維持を目標に、有酸素運動などを中心に行っていきます。

まとめ

・多発性硬化症は大脳や小脳、脊髄などの中枢神経が脱髄を起こす指定難病で、運動麻痺、感覚障害、視力低下など様々な症状を呈する病気である。
・症状は寛解と憎悪を繰り返しながら徐々に進行していく事がほとんどである。

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